お願いするときや相手の申し出を断るときなど、言いにくいことを「相手の機嫌を損ねずに、かつ自分の意見は伝える」のはむずかしいことだ。どう話せばいいのか、悩むことが多い。とくに電話では表情が見えないため、慎重になる。
そんなときに便利なのがクッション言葉だ。ひと言つけ加えるだけで、配慮した印象を相手に与えられる。4つの場面別に、クッション言葉とそれを使った例文を紹介する。一覧表として使ってもらいたい。
依頼・お願いするとき、尋ねるとき
お願いや依頼をするとき、「〇〇してください」と直球で伝えるのでは、相手に失礼な人だと思われるかもしれない。「〇〇してください」は丁寧語だが、人によっては命令・指示されていると受け取る。紹介するクッション言葉は、こういう場面で役立つ。相手に配慮した印象になる。
「〇〇してください」ではなく、「〇〇していただけますか」「〇〇していただけませんでしょうか」など、疑問形にすることで、お願いでありながらも、相手に決定権を委ねている形になる。さきほどより印象が良くなる。
同様に「〇〇いただけますと幸いです」も使える表現だ。語尾を工夫することで、さらに丁寧な印象に変わる。
1恐れ入りますが/恐縮ですが
例文「恐れ入りますが、ご確認のうえ、〇月〇日までにお返事いただけますでしょうか」
2買って申し上げますが/身勝手なお願いではございますが
例文「こちらの都合で勝手申し上げますが、急ぎご確認いただけますでしょうか」
3よろしければ/差し支えなければ
例文「よろしければ、弊社からパンフレットを発送いたします」
4お手数をおかけいたしますが/ご面倒をおかけいたしますが
例文「お手数をおかけいたしますが、伝言をお願いできますでしょうか」
5無理を承知でお願い申し上げますが
例文「無理を承知でお願い申し上げますが、納期を少し延ばしていただけませんでしょうか」
6ご教示賜(たまわ)りたいのですが
例文「不勉強なもので、ご教示賜りたいのですが、御社ではどのような研究をなさっているのでしょうか」
催促するとき
ビジネスでは催促する場面が数多く訪れる。とくに社外の人は、相手の仕事の状況や社内の事情が把握できないこともあり、「迷惑ではないか」と催促をためらう気持ちもわかる。しかし、ビジネスでは「こちらも待っているのだ」と伝えることも大切だ。
催促するときに大事なのは、相手にも事情があることは察している、という気持ちを伝えることだ。まず相手の事情を聞き、そのうえで、あとどれくらい待てるのか、こちらの事情を伝える。歩み寄りの姿勢を見せよう。
7ご多忙中とは存じますが
例文「ご多忙中とは存じますが、ご検討いただけますと幸いです」
8急かすようで大変恐縮ですが/たびたびのご連絡となり恐れ入りますが
例文「急かすようで大変恐縮ですが、〇〇の件はその後いかがでしょうか」
9できれば〇〇日頃までに
例文「できれば〇月〇日頃までに、一度お返事いただけませんでしょうか」
10お手すきの際にでも
例文「お手すきの際にでも、一度ご確認いただけますとありがたく存じます」
11ご検討いただいているところと存じますが
例文「先日の案件、ご検討いただいているところと存じますが、その後いかがでしょうか」
12〇〇だけでもお知らせいただけませんでしょうか
例文「ご依頼いたしました件について、ご検討の状況だけでもお知らせいただけませんでしょうか」
断るとき
申し出や誘いを断られると、誰でも残念だと感じる。断る側には、少しでも相手の残念に思う感情を和らげ、今後につながるような断り方をする必要がある。
紹介するのは、相手の誘いをありがたく思い、否定するのは残念だ、という意味を込めたクッション言葉だ。断るときこそ、相手への気づかいが伝わるかが試される。断り方次第では、関係が切れてしまうこともある。うまく切り返せば、今まで以上に良い関係を築くことも可能だ。相手の気持ちに配慮した言葉を組み立てよう。
13申し訳ございませんが
例文「申し訳ございませんが、ご要望にはお応えいたしかねます」
14残念ながら
例文「残念ながら、今回は不採用とさせていただきました」
15せっかくですが/せっかくのお話ですが/ありがたいお話ですが
例文「せっかくのお話ですが、今回は参加することができません」
16大変残念ですが
例文「大変残念ですが、会社の方針により、今回のお話はお受けできないことと決まってしまいました」
17大変申し上げにくいのですが
例文「大変申し上げにくいのですが、今回は発注を見送らせていただきたく存じます」
18お役に立てず申し訳ございませんが
例文「お役に立てず申し訳ございませんが、また別の機会にご一緒できればと存じます」
反論するとき、目上の人に対して意見を言うとき
会議などで相手の意見に反論するとき、相手の機嫌を損ねないか悩むことが多い。しかし、こうした場面で意見をはっきり言えることも、ビジネスパーソンには大切だ。とくに上司や取引先の担当者など、目上の立場の人に反対意見を言うときには、柔らかい表現を使いつつ、自分の主張を伝えることが求められる。
紹介するクッション言葉は、どれも相手を尊重している表現を集めた。相手の意見をまず受け止め、そこに自分の意見をつけ加える、という感覚だ。相手は「否定された」と感じることなく、あなたの意見に耳を傾けてくれるはずだ。
19僭越(せんえつ)ながら
例文「僭越ながら、私の意見を申し上げてもよろしいでしょうか」
20おっしゃることはよくわかるのですが/ごもっともですが
例文「おっしゃることはよくわかるのですが、当社の規定ではむずかしい状況です」
21重々(じゅうじゅう)お察ししますが
例文「ご事情は重々お察ししますが、これ以上の値引きは弊社としてはいたしかねます」
22ひとつだけよろしいでしょうか
例文「ひとつだけよろしいでしょうか。締切に関してだけは、前倒ししたほうが良いかと存じます」
23あえてつけ加えるなら
例文「素晴らしいアイデアです。あえてつけ加えるなら、〇〇というのはいかがでしょうか」
24ご無礼を承知で申し上げますと
例文「ご無礼を承知で申し上げますと、今回の仕様変更に関しては、同意できかねます」
25申し上げてもよろしいでしょうか
例文「私の意見を申し上げてもよろしいでしょうか。私は〇〇と思います」
クッション言葉の使いすぎに注意
クッション言葉の誤用や使いすぎには気をつけたい。よくやってしまうのは「申し訳ございませんが」の乱用だ。謙遜するあまり、謝る必要はないのに使う人が多い。謝罪のときも、失礼かもと感じているときも、相手の気持ちを考慮している伝えたいときにも、使う。「申し訳ございませんが」に多くの意味を込めすぎだ。
メールを送るときにも注意したい。メールでは表情も声色も伝わらない。用件だけでは物足りないと感じ、クッション言葉を詰め込む。丁寧に表現するのは大切なことだが、読み直してみると「恐縮ですが」が何度も登場している、なんてことが起こる。
会話では気にならない程度でも、文章にするとわずらわしい。メールは必ず読み返し、クッション言葉が多すぎないか見直したい。