職場におけるパワハラの事例を厚生省が公表 その内容とは?【解説記事】

職場におけるパワハラの事例を厚生省が公表 その内容とは?【解説記事】

厚生労働省は企業に求める職場のパワーハラスメント(パワハラ)防止策の指針の素案をまとめ、21日に労働政策審議会に示した。議会は労使の代表者で構成されている。

指針案ではパワハラの定義やパワハラにあたる事例・あたらない事例などを示したが、議会では委員から疑問や指摘が相次いだという。日本労働弁護団は「パワハラの定義を矮小化している」として抜本的な修正を求める声明を出した。

どこまでがOKで、どこからがOUTなのか。パワハラの明確な線引きがむずかしいことが改めて浮き彫りになった。厚生省は年内の指針決定を目指すが、一筋縄にはいきそうにない。

▼参考記事はこちら

パワハラ「該当例」「該当しない例」…厚労省指針の素案で初の例示 – 読売新聞オンライン

パワハラなど8万件、7年連続最多 18年度の労働相談 – 日本経済新聞

▼厚生労働省の指針案はこちら

第20回労働政策審議会雇用環境・均等分科会 – 厚生労働省

▼日本労働弁護団の声明はこちら

パワハラ助長の指針案の抜本的修正を求める緊急声明を発表しました – 日本労働弁護団

職場におけるパワーハラスメントの定義

2020年の4月から大企業で適用されるパワハラ防止関連法では、職場におけるパワハラを次のように定義して、企業に対策を求めている。

「事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」。

次の3つの項目をすべて満たすものが職場のパワハラの定義となる。

  1. 優越的な関係を背景にした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されること

本人がパワハラだと感じる業務指示や指導であっても、客観的にみて上記をひとつでも満たさない場合は職場におけるパワハラにはあてはまらない。

厚生労働省はこの定義を前提として、職場におけるパワハラの判断基準を明確にすることを今回の指針案の目的とする。

職場におけるパワハラの定義をもっと詳しく

厚生省は指針案のなかで、職場におけるパワハラの定義をより具体的に示した。

「優越的な関係を背景とした言動」の定義

優越的な関係を背景とした言動については

「言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性(がいぜんせい:確からしさの度合い)が高い関係を背景としたおこなわれるもの」

と定義した。

次のものが当てはまる。

  • 職務上の地位が上位の者による言動
  • 同僚または部下による言動で、行為者(パワハラ加害者)が業務上必要な知識や豊富な経験を持っていて、行為者の協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難なもの
  • 同僚または部下からの集団による行為で、抵抗や拒絶が困難なもの

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」の定義

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものについては

「言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様(ありさま、ようす)が相当でないもの」

と定義した。

次のものが当てはまる。

  • 業務上明らかに必要のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • 当該行為の回数、行為者の数など、その態様(ありさま、ようす)や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

その判断については、次の項目を考え合わせることがふさわしいとした。

  • 当該言動の目的
  • 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動がおこなわれた経緯や状況
  • 業種や業態
  • 業務の内容や性質
  • 当該言動の態様や頻度、継続性
  • 労働者の属性や状況
  • 行為者との関係性

相談窓口の担当者は、事実確認を十分におこなうことが重要とした。

「労働者の就業環境が害されること」の定義

労働者の就業環境が害されることについては

「当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過(見過ごすこと)できない程度の支障が生じること」

と定義した。

判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」を基準とする。社会一般の労働者の多くが、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動をいう。

職場でパワハラにあたる事例、あたらない事例

素案では、厚生省が以前に公表したパワハラに関する6つの類型をごとに、パワハラにあたる事例とあたらない事例を示した。厚生省がパワハラの具体例をあげるのは初めての試みとなる。

パワハラの6類型とは次の項目をさす。

  1. 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
  5. 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

「身体的な攻撃」にあたる職場のパワハラ事例

「身体的な攻撃」にあたる職場のパワハラ事例としては、

  • 殴打、足蹴りをおこなうこと
  • 怪我をしかねない物を投げつけること

はパワハラになるが、

  • 誤ってぶつかる、物をぶつけてしまうなどにより怪我をさせること

はパワハラにならないとした。

「精神的な攻撃」にあたる職場のパワハラ事例

「精神的な攻撃」にあたる職場のパワハラ事例としては

  • 人格を否定するような発言をすること。相手の性的嗜好・性自認(ジェンダーアイデンティティー)に関する侮辱的な発言をすることを含む
  • 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたるきびしい叱責を繰り返しおこなうこと
  • 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メールなどを本人を含む複数の労働者あてに送信すること

はパワハラにあたるが、

  • 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動がみられ、再三注意しても改善されない労働者に対して強く注意すること
  • 企業の業務の内容あ性質などに照らして重大な問題行動をおこなった労働者に対して強く注意すること

はパワハラにあたらないとした。

「人間関係からの切り離し」にあたる職場のパワハラ事例

「人間関係からの切り離し」にあたる職場のパワハラ事例としては

  • 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事をはずし、長期にわたり別室に隔離したり自宅研修させたりすること
  • ひとりの労働者に対して同僚が集団で無視をして職場で孤立させること

はパワハラになるが、

  • 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修などの教育を実施すること
  • 処分を受けた労働者に対して、通常業務に復帰させる前に個室で必要な研修を受けさせること

はパワハラにならないとした。

「過大な要求」にあたるパワハラの事例

「過大な要求」にあたるパワハラの事例としては、

  • 長期間にわたる、肉体的苦痛をともなう過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命じること
  • 新卒採用者に対して、必要な教育をおこなわないまま到底対応できないレベルの業務目標を課して、達成できなかったことに対してきびしく叱責すること
  • 労働者に業務とは関係のない私的雑な用の処理を強制的におこなわせること

はパワハラにあたるが、

  • 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること
  • 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常よりも一定程度多い業務の処理を任せること

はパワハラにあたらないとした。

「過小な要求」にあたるパワハラの事例

「過小な要求」にあたる職場のパワハラ事例としては、

  • 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務をおこなわせること
  • 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと

はパワハラになるが、

  • 経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること
  • 労働者の能力に応じて、業務内容な業務量を軽減すること

はパワハラにならないとした。

「個の侵害」にあたる職場のパワハラ事例

「個の侵害」にあたる職場のパワハラ事例としては、

  • 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること
  • 労働者の性的嗜好・性自認や病歴、不妊治療などの機微(表面にあらわれなくて容易にわからない)な個人情報について、当該労働者の了承を得ずにほかの労働に暴露すること

はセクハラにあたるが、

  • 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況などについてヒアリングをおこなうこと
  • 労働者の了解を得て、当該労働者の性的嗜好・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達して配慮を促すこと

はパワハラにあたらないとした。

日本労働弁護団が素案の抜本的修正を求める声明を発表

日本労働弁護団は21日に記者会見をひらき、素案には「重大な問題がある」として、抜本的な修正を求める声明をだした。

声明では「実質的なパワハラ防止策となっていないばかりか、むしろパワハラの範囲を矮⼩化(小さく)し、労働者の救済を阻害する」と主張する。

「使用者にパワハラに当たらないという言い訳を許し、かえってパワハラを助長しかねない」として「『使用者の弁解カタログ』となるような指針などないほうがまし」だと強く非難した。

問題点として次の4項目を指摘して、すみやかな修正を求めた。

  1. 「優越的」の定義が狭すぎる
  2. 労働者の問題行動の有無を重視すべきではない
  3. 「該当しない例」が極めて不適当である
  4. 国会の附帯決議が反映されていない

まとめ

パワハラに対しての関心が高まり、労働相談が増えている。

労働者と企業のトラブルを裁判をせずに解決する方法に「個別労働紛争解決制度」がある。利用状況を厚生省が毎年、発表している。

2018年度は全体で26万6535件の労働相談があった。前年度比5.3%増で過去最多という。

内訳はパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談が8万2797件でもっとも多い。前年比14.9%増で、7年連続でトップである。

「バカ、クズなど暴言を日常的に受けている」、「先輩から『早く辞めてほしい』と言われ、上司は見て見ぬ振りをしている」といった相談が毎日、寄せられるという。

労働者のみなが安心して働けるように、しっかりとした職場のパワハラ防止策の指針を厚生省にはまとめてもらいたい。焦らずに、でも速やかに。

職場におけるパワハラの事例を厚生省が公表 その内容とは?【解説記事】