日本語は繊細だ。言葉の選び方が少し違うだけで、相手の印象は180度変わる。
とくにビジネスでは、言葉遣いに注意したい。ちょっとした言い方の違いで「得」をしたり「損」をしたりする。
ここでは、初対面、会議、部下との接し方、接待、雑談など、さまざまなビジネスでの言葉遣いの失敗例と訂正案を25の例文で紹介する。
好印象を与える話し方がわかるはずだ。
mokuji
ビジネスでの言葉遣い:「初対面」での失敗例と訂正案
1「わざわざ」
失敗例:「わざわざお越しいただきありがとうございます」
訂正案:「本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます」
「わざわざ」は、文の後半に「〜しなくていい」という否定が続く印象が強い。夫といっしょに里帰りした嫁対して意地悪な姑が「わざわざ来なくてもよかったのに、来てしまったのね(残念)」という感じだ。はっきり余計なひと言だ。
ここは時間を作って訪問してくれたことに対し、感謝の気持ちを素直に伝えるのが正解だ。変に言葉を丸めようとしないほうがいい。
2「お噂はかねがね」
失敗例:「お噂はかねがね伺っています」
訂正案:「フランス語がとても堪能だというお噂を、かねがね伺っております」
「お噂はかねがね」だけでは、「え、どんな噂されてるの?」と相手を不安にさせる。いい噂は具体的に伝えることだ。
悪い噂は伝える必要なし。ニヤリと笑いながら「お噂はかねがね……」と言う意味深な人との仕事はお断りだ。初対面だからといって気の利いた言い回しを使わなくていい。「いつも大変お世話になっております」と当たり障りのない挨拶で済ませればいいのだ。
ビジネスでの言葉遣い:「上司への報告」での失敗例と訂正案
3「絶対」
失敗例:「S社との取引は絶対にしないほうがいいです」
訂正案:「S社との取引は、〇〇の理由で、我が社にとって有益ではないと考えます」
「絶対」という表現は主観的すぎる。ビジネスにはふさわしくない言葉遣いだ。「倒産の可能性がある」とか「裏社会との噂がある」とか、自分が絶対に取引したくない理由をはっきり伝えること。その気持ちは、きっと上司に届く。
他にも「ふつうは〇〇」「誰もが〇〇」「多くの人が〇〇」「大幅に〇〇」「きれいな〇〇」なども主観的な表現だ。多用すると論理性に欠ける人物だと判断される。モノゴトに対しての大小には個人差がある。数字を使って事実をそのまま伝えたい。
4良いニュース→悪いニュースで伝える
失敗例:「やってみますが、むずかしいと思います」
訂正案:「むずかしいと思いますが、やってみます」
上司への報告では、伝える順番も大切だ。失敗例は、やる前から諦めているように聞こえるが、訂正案は、困難に果敢に挑戦していくような印象を受ける。
基本は「悪いニュース→良いニュース」の順で伝えるといい。相手の印象に強く残るのは、さいごの言葉だ。
5決定形で伝える
失敗例:「次のS社との打ち合わせは〇〇月〇〇日になりました」
訂正案:「次のS社との打ち合わせは〇〇月〇〇日になっております。ご都合いかがでしょうか?」
頼みごとをするときは「決定形」ではなく「疑問形」で伝える。「〇〇になります」「〇〇してください」という表現では、相手は命令されていると感じる。目上の相手には使ってはいけない。
「ご都合はいかがでしょうか?」を付け足し、相手に決定権があることを伝える。相手は快くお願いを聞いてくれるはずだ。
6ネガティブな表現を使う
失敗例:「今度の新人は仕事が遅くて使えません」
訂正案:「今度の新人はマイペースですが、仕事を丁寧にやってくれます」
ネガティブな表現ばかりする人が近くにいると、不快になる。他人の悪口を言うたびに、自分の評価も下げているのだ。人の噂は社内に広がるもの。不注意な発言が採用担当者の耳に届くかもしれない。
反対に、後輩の長所を見つけ、褒めてあげる姿勢は、先輩としての優しさ、器の大きさを感じる。こっちを目指したい。
ビジネスでの言葉遣い:「部下への指導」での失敗例と訂正案
7「とりあえず」
失敗例:「とりあえず資料まとめといてくれる?」
訂正案:「この資料は次回の管理職会議で使うものなんだ。この前作ってもらった資料がわかりやすいって評判でね。ぜひ、今回もキミにお願いしたいんだけど、いいかな?」
部下に指示を出すとき、「とりあえず」は禁ワードだ。どういう意図を持ってその仕事を依頼しているのかはっきり言葉にしないと、部下には上司が「とりあえず」の中に込めた考えが伝わらない。上司が「察してちゃん」では部下は困るのだ。
指示の意図が理解できると、部下は納得し仕事に取りかかる。考えを共有できるので、仕事もスムーズに進むはずだ。
8「どうして」「いつも」
失敗例:「〇〇くん! どうしていつも君は遅れるんだ?」
訂正案:「〇〇くん、締め切りまでに提出してくれないと私が困ってしまうよ。なんとかならない?」
「どうして」「いつも」という一方的な言い方では、相手は存在そのものを否定された気分になる。相手の言い分を聞いた上で、こちらの状況を伝えるといい。
部下を指導するときは、相手を主語にするとどうしても批判的になる。自分を主語に置くほうが、気持ちが伝わりやすい。
9「〇〇してあげる」
失敗例:「あとはやっておいてあげるから」
訂正案:「あとは私がやっておくよ」
「〇〇してあげる」は恩着せがましい言い方だ。「私がわざわざ手伝ってあげるのだから感謝しなさいよ」という感情が透けて見える。ツンデレキャラとして社内で通っている人以外は使わないほうがいい。
せっかく手伝ったのに、感謝してもらえないのは悲しい。「私がやる」と立候補する姿勢のほうが、ありがとうと言ってもらえる。
10悪口をそのまま伝える
失敗例:「S社の〇〇さんが君のこと仕事が遅いって言ってたよ」
訂正案:「S社の〇〇さんって時間にきびしい人だから、早めの連絡を心がけるとうまくいくよ」
第三者からの悪評をそのまま伝えないことだ。悪口を言われている事実に傷つき、上司もその通りだと思っていると感じ、さらに傷つく。部下にとってダブルパンチ。その場で崩れ落ちるかもしれない。
部下が批判されるのには理由があるはず。その理由を突き止め、アドバイスとして伝えてあげる。部下は傷つかず、行動を改めることができる。こういう上司になりたい。
ビジネスでの言葉遣い:「会議」での失敗例と訂正案
11「なにがいけないのですか?」
失敗例:「この提案のなにがいけないのですか?」
訂正案:「この提案をもっとよいものにしたいので、ご意見をうかがえますか?」
会議では、自信があるアイデアを上司にダメ出しされることがある。つい言ってしまうのが「なにがいけないのですか?」。本人にそのつもりはなくでも、「どこか気に入らないところありますか?」と喧嘩腰に聞こえるひと言だ。
ビジネスでは相手の誤解を生むような言葉遣いは避けること。「意見を聞かせてほしい」という気持ちを素直に伝えるといい。
12対立関係を作る言葉遣い
失敗例:「どう考えてもB案が優れていると思いますが」
訂正案:「A案もよいと思いますが、〇〇の理由でB案が捨てるにはおしいと考えます。いかがでしょうか?」
B案を押す気持ちが強すぎると、A案を下げてしまいがち。だが、会議にはA案を支持する参加者がいることを忘れてはいけない。対立関係を作る言葉遣いでは、相手も意地になり態度を変えてくれない。議論は平行線のままだ。
参加者の意見をB案にまとめたい場合、A案のよさを認めつつ、A案を押す人に「B案はいかがですか?」とB案のよさをアピールする。B案が議論の中心にくるように進めていく。こうすれば対立関係を生むことなく、会議はスムーズに進む。
ビジネスでの言葉遣い:「雑談」での失敗例と訂正案
13悪口に同調する
失敗例:「そうだよね。あの部長って人を雑に扱うっていうか、私たちのこと動物以下に見てるって感じ」
訂正案:「部長のこと、そんなふうに言う人もいるみたいだね」
悪口に同調するのは危険だ。悪口を言う人は、嫌いな相手の悪評を広めたいと思っている。悪口に同調してしまったら、次の誰かと話すとき「〇〇さんも言ってたよ」と仲間にされるかもしれない。うわさが広がり、本人の耳に入る恐れもある。
悪口に対しては、肯定も否定もしないことだ。「そうなんだ」や「大変だね」で済ませ、さっさと違う話題に変えよう。
14空気が読めない
失敗例:「そうですか? 私は違います」
訂正案:「そうですね。私にも経験があります」
相手が同意を求めているのに「そうですか?」と否定するのは、ビジネスではNG。本人は誠実なつもりかもしれないが、思った以上に相手は拒否されたと感じるものだ。
空気を読むのはビジネスでは大切。信念を曲げてまで同調する必要はないが、些細なことなら同調しておくのが無難だ。
ビジネスでの言葉遣い:「商談」での失敗例と訂正案
15「よろしくお願いします」
失敗例:「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
訂正案:「おはようございます。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
「今日はよろしくお願いします」は悪くないが、ありきたりの言葉だ。商談ではもう少し敬意を表せる言葉遣いが好ましい。
はじめの挨拶には「ありがとう」のひと言を入れること。感じの良さが相手に伝わり、いいスタートを切ることができる。
16「参考になりました」
失敗例:「とっても参考になりました」
訂正案:「大変勉強になりました。さっそく今日から始めようと思います」
「参考」は上から目線の言葉遣い。「取り入れるところがあったら、取り入れてあげてもいいよ」という意味を含む。目上やビジネスの相手に使うのは失礼だ。
「参考」を「勉強」に置き換えること。さらに「〇〇の点で勉強になった」「今後は〇〇したい」を付け加えると、相手は熱心に聞いてくれたと感じる。
17相手を批判する
失敗例:「否定ばかりでは、まったく話が進まないですよ」
訂正案:「では、どのようにすればいいとお考えですか?」
商談では、何を言っても反論されることがある。つい「話が進まないのはお前のせいだ!」と批判したくなるが、その言葉の先に待っているのは、交渉決裂という結果だ。ここはグッと飲み込み、質問するのが吉だ。
相手に意見を求めることで、謙虚な姿勢を見せるとともに、論破の糸口が見つかるかもしれない。
18責任逃れをする
失敗例:「私はお受けしたいと考えているのですが、上のものの賛同が得られませんで残念です」
訂正案:「今回は〇〇の理由でお受けできませんが、次回は実現したいと考えております。よろしくお願いします」
断りにくいからといって、上司を出すのは責任逃れだ。交渉窓口は自分なのだから、会社や上司のせいにするのは相手にとって失礼すぎる。担当者として最後まで責任を持つこと。
引き受けられない理由もはっきり伝えることも、相手への礼儀。次回はその点を改善した良い提案が期待できる。
ビジネスでの言葉遣い:「接待」での失敗例と訂正案
19店と料理をほめない
失敗例:「本日はお招きいただきありがとうございます」
訂正案:「結構なお店ですね。よくいらっしゃるのですか?」
接待される側でも、ゲスト意識が強すぎるのはよくない。相手はこの日の接待のために、店を探したり料理を決めたりしてくれている。準備してくれたことに感謝を示すためにも、店や料理に対して「いいお店ですね」「おいしいですね」と伝えるのが礼儀だ。
形式的な挨拶より「ほめる」ほうが相手もうれしい。相手の気持ちを盛り上げるのは、招待される側の役目だ。
20子供扱いする
失敗例:「食べられないものはありますか?」
訂正案:「苦手な食材など、ありますか?」
「食べられない」という表現は子供っぽすぎる。「苦手」に置き換えることだ。ビジネスの相手に対し、失礼にならない言葉遣いを心がけたい。
まずは店を決める時点で、相手の好き嫌いをリサーチしておくこと。雑談中に本人に聞いてもいいし、幹部クラスなら秘書にたずねるのもいい。当日はお店の人から聞いてもらうのがスマートだろう。
21謙遜しすぎる
失敗例:「とんでもないです。まだまだ半人前以下のひよっこです」
訂正案:「ありがとうございます。〇〇さんのお言葉、本人に伝えます。より一層がんばってくれると思います」
部下の仕事をほめられたときは、感謝して受け入れること。謙遜する気持ちもわかるが、相手の好意を否定することになる。相手から振ってくれた話題をすぐに終わらせてしまうのも、もったいない。雰囲気が悪くなる。
自分をほめられたときも同じ。相手の好意は素直に受け入れることだ。謙遜するにしても、まずは「ありがとう」と感謝のひと言を入れるのを忘れずに。
ビジネスでの言葉遣い:「電話」での失敗例と訂正案
22気が利かない
失敗例:「すみません。〇〇は休みをとっています」
訂正案:「申し訳ございません。〇〇は本日休みをとっております。私でよければ、承れることはございますか?」
電話対応では、休みという事実を伝えたあと、自分が代わりに対応できることがないか確認するのがマナーだ。このひと言のあるなしは、社員教育の良し悪しだけでなく、会社全体の評価にも関わる。電話にでるときは会社の代表だという気持ちで望むことだ。
23「やれやれ」感が出ている
失敗例:「では、もう一度ご説明させていただきますが……」
訂正案:「ご説明が至らず失礼いたしました。さきほどの件ですが……」
本人は丁寧に対応しているつもりでも、言葉の端っこから「やれやれ」という気持ちが顔を出している。「理解できないのは相手が悪い」と心の中で思うのはいいが、それを表に出さないことだ。
まずはこちらの非を詫びることで、相手の顔を立ててあげる。電話対応以外でも、人との対応では心がけたいことだ。
ビジネスでの言葉遣い:「飲み会」での失敗例と訂正案
24高圧的な言葉遣い
失敗例:「次の飲み会の幹事、もちろんやってくれるよね?」
訂正案:「忙しいと思うんだけど、次の飲み会の幹事、頼める?」
人に頼みごとをするときは相手の気持ちを尊重する話し方を心がけたいもの。有無を言わさぬ高圧的な言葉遣いでは、受けてくれたとしても、不愉快な気分にさせるのは確実だ。
参加者全員が楽しめるのが最高の飲み会だ。上司や先輩であっても、頼み方には気をつけたい。
25つれない態度
失敗例:「すみません。今日は予定があるので無理です」
訂正案:「ありがとうございます。ご一緒したいのですが、今日は外せない用事があります。次回はぜひ参加させてください」
上司や先輩から飲み会のオファーがあったときは、行く行かないは別として、誘ってくれた事実に対して感謝を伝えること。断るにしても、さいごに「次回は行きたい」と伝えれば、上司も悪い気はしない。次も誘ってくれる。
「来週は空いてますか?」とこちらから提案できるとグッド。可愛い部下からの提案に、上司は断られた事実すら忘れてしまうだろう。