日本にも事例が? フェイクニュースが拡散する5つの理由

日本にも事例が?フェイクニュースが拡散する5つの理由

欧米ではフェイクニュースが大きな社会問題になっている。だが、日本も他人事とは言ってられない状況だ。

フェイクニュースは日本にも多くの事例がある。直近の災害時には被災者の不安を煽るようなツイートが拡散した。キュレーションサイトや、新聞やテレビなどのマスメディアが虚偽の情報を流し、読者を混乱させたり、世論を誘導しようとしたりするケースもある。

フェイクニュースはなぜ拡散するのか。その理由を探る。

※この記事は、国際大学の山口真一氏がHarvard Business Reviewに寄稿した『フェイクニュースの正体と情報社会の未来』を参考に作成した。

フェイクニュースといえばアメリカのイメージ

フェイクニュースという言葉を聞くと、トランプ大統領を思い浮かべる人が多いだろう。

2016年のアメリカ大統領選挙では、さまざまなフェイクニュースがインターネット上を駆け巡った。「民主党候補のヒラリー・クリントンは、テロ組織IS(イスラム国)に武器を売却した」や「ローマ法王がトランプ氏を支持した」などだ。「フェイクニュースがトランプ大統領を生んだ」とまで言われた。

だが、実際のところフェイクニュースはアメリカ大統領選挙に影響したのだろうか?

こんなデータがある。選挙前3ヶ月間では、ドナルド・トランプ氏に有利なフェイクニュースは約3000万回、ヒラリー・クリントン氏に有利なフェイクニュースは約800万回、合計約3800回もシェアされていたという調査が発表された。

また、選挙直前には、主要メディアの選挙ニュースよりも偽の選挙ニュースのほうが、フェイスブック上で多くのユーザーの反応を得ていたことも明らかになっている。

米大統領選の終盤、Facebook上では偽ニュースが本物を逆転した – BuzzFeed News

フェイクニュースの問題は欧米中心で起こっているイメージが強い。アメリカではフェイクニュースに関する報道が頻繁になされている。ヨーロッパでは、移民や難民を差別する意図を持つフェイクニュースが大きな社会問題となっている。

フェイクスニュースは日本にも事例が

では日本はどうか。日本では欧米ほどフェイクニュースが問題にはなっていない。

だが、フェイクニュースは身近に潜んでいる。ただ問題にはなっていないだけなのだ。

日本の事例をいくつか紹介しよう。

2016年の熊本地震では「動物園からライオンが逃げた」というフェイクニュースがツイッターで流れた。ツイートは投稿から1時間で2万回以上リツイートされた。熊本市動植物園には多くの問い合わせが多く寄せられたという。投稿した人物は、偽計業務妨害の疑いで逮捕された。

「ライオン逃げた」熊本地震のデマ情報を拡散した疑い 20歳男を逮捕 – HUFFPOST

災害時にフェイクニュースが拡散する事例はよく見られる。2018年7月の西日本豪雨では、「レスキュー隊のような服を着た窃盗グループが被災地に入った」「犯人が乗っている車は○○で、ナンバーは○○○○」といったフェイクニュースがSNSで拡散した。広島県警が「デマ情報に惑わされないで!」と呼びかけるまでに至った。

デマに惑わされないで! - 熊本県警ツイート

2017年には、あるウェブサイト(大韓民国民間報道)が「韓国、ソウル市日本人女児強姦事件に判決 一転無罪へ」という記事を公開。記事はネット上で約2万ものシェアを得た。しかしその後の調査で、フェイクニュースだったとわかった。作成者はアクセス数を稼いで広告収入を得るために作ったとして、記事がフェイクニュースだったと認めている。

大量拡散の「韓国人による日本人女児強姦」はデマニュースか サイトは間違いだらけ – BuzzFeed News

企業が主導したフェイクニュースの事例では、キュレーションメディアが話題なった。DeNAが運営する大手キュレーションサイトが2016年、他サイトや文献からのパクリを指摘された。間違った情報を載せていたことも明らかになり、医療情報サイトでは健康被害につながる恐れがあるとして大きな問題になった。

DeNA、村田マリ氏らを処分–キュレーション問題の調査報告書を公表 – CNET Japan

フェイクニュースが存在するのはSNSやネット上だけではない。テレビや新聞といった旧来のマスメディアもフェイクニュースを発信した事例がある。

有名なのは1989年の朝日新聞の記事だ。朝日新聞は「サンゴ汚したK・Yってだれだ」というタイトルで、西表島近海でサンゴに傷がつけられていたと写真付きで報じた。サンゴを傷つける日本人の精神を批判する記事だった。だが、サンゴを傷つけたのは朝日新聞の社員であることが判明。朝日新聞は大きく批判を受けた。

朝日新聞珊瑚記事捏造事件 – フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

サンゴ事件だけじゃない 朝日新聞の誤報・虚報歴代ベスト5 – NEWSポストセブン

フェイクニュースが拡散する5つの理由

さて、次はフェイクニュースが拡散する理由を見ていこう。

『サイエンス』紙が2018年、フェイクニュースに関する驚きの研究結果を掲載した。真実より、フェイクニュースのほうが拡散する速度が早く、その範囲も広いというのだ。

10万件以上のツイートを分析したその論文にはこう書かれている。

  • 真実が1500人に届くには、フェイクニュースよりも約6倍の時間がかかる
  • フェイクニュースのほうが70%も高い確率で拡散されやすい

なぜフェイクニュースは拡散されるのか。それには5つの理由がある。

1 SNSが身近になり、誰もが情報を発信できる

SNSの普及はひとつの革命だ。SNSが発達するまでは、不特定多数に発信できるのは限られた人物のみが持つ特権だった。著名人や大手マスメディアだ。SNSの登場はその特権を奪った。そして人々に解放したのだ。

だが、ソーシャルメディア時代の到来には悪い面もある。誰もがSNSを通して、手軽に、不特定多数に発信できるようになった。その情報が真実か、フェイクニュースかに関わらずだ。

なぜフェイクニュースを流すのか? SNSは承認欲求を刺激する。「もっと見てほしい」「もっとシェアしてほしい」という欲望を満たすため、フェイクニュースを流すのだ。

そしてSNSはフェイクニュースを簡単に拡散できるシステムになっている。SNSにはフェイクニュースが拡散される下地が整っているのだ。

2 サイバーカスケード

ネット上には無数の情報があり、ユーザーがいる。どの情報を得るのか、誰と繋がるのか、ネット利用者は常に選択を迫られている。

ネット利用者の多くは自分にとって好ましい情報や、自分と似た意見・価値観を持つユーザーばかりを選ぶ。そのほうが気分がいいからだ。その結果、自分に都合の良い情報のみが集まる。反対の声は届かない。

このような環境では、自分たちと反対の立場にある人や情報を無視したり排除したりする傾向が強くなる。極端な意見が幅を利かせやすい状況を招く。グループが閉鎖的になっていくのだ。この現象をサイバーカスケード(集団極性化)という。

サイバーカスケード -フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

極性化したユーザーにはフェイクニュースがよく響く。フェイクニュースは過激なものが多い。彼らは自分の意見が正しいと証明できる情報や、敵を批判できる理論を常に探している。フェイクニュースを見つけたユーザーは、「やっぱりそうだ」と自信を深め(あるいは批判を強め)、自分とつながりがある人に積極的に広める。

3 友人からの情報は信頼できるという思い込み

SNSの普及は、情報の入手方法を変えた。普及前は新聞やテレビなどから直接情報を得ていたのが、普及後は友人(あるいはフォローしているユーザー)がシェアしたものを閲覧する形でニュースを知るようになった。

友人には大きな影響力がある。ある情報が信頼できるか、できないかを判断するとき、人には情報発信者の専門性より情報発信者との親しさを重視する傾向がある。自分の友人やフォローしているユーザーがニュースを拡散している場合、同じニュースを他人やメディアから得るよりも信用しやすいのだ。

SNSがなかった時代は、メディアごとに情報を取得していた。新聞や週刊誌、テレビ番組などだ。「〇〇新聞の情報は信頼できる」「〇〇雑誌はうさんくさい。話半分で読もう」など、受け取る側はメディアごとに信頼度を測っていた。

しかし、いまは友人がシェアしたニュースを読み、情報を得る。ニュースが切り取られているため、メディアごとの判断がしにくくなっている。フェイクニュースかどうか判断できず、流されるまま拡散してしまうのだ。

4 フェイクニュースが持つ目新しさ

『サイエンス』誌に掲載された論文の著者は、「目新しさ」がフェイクニュースが拡散する原動力だと指摘する。コミュニケーションの研究でも、目新しいニュースのほうが拡散されやすい傾向にあることがわかっている。

これは当然だろう。真実というのはだいたいが地味だ。真実を語るニュースは安定しているが、おもしろ味には欠ける内容であることが多い。一方、フェイクニュースはいくらでも目新しい内容にできる。創作だからだ。

また、フェイクニュースは匙加減が絶妙だ。あまりに真実から離れて奇抜すぎると嘘だと見抜かれてしまう。真実味を混ぜた上で、目新しく関心を引くように作っているのだ。

5 正義感の暴走

山口氏が2017年におこなった実証研究では、「ネット炎上」に参加する60〜70%の人が、「許せなかったから」や「失望したから」といった正義感からコメントを書き込んでいるという。ここでいう正義感とは、社会的正義ではなく、ひとりひとりが持つ価値観から見た正義だ。

アイスケース炎上事件に書き込んだ理由

上の表は学生がスーパーマーケットのアイスケースに入った写真をツイッターなどにアップして炎上した事例を取り上げ、書き込んだ動機を調査したデータだ。70%の人が正義感から書き込んでいることがわかる。

一方、快楽のために炎上に参加する人は少ない。「いろいろ書き込むのが楽しいから」「ストレス解消になるから」といった理由から書き込む人は20%ほどだ。

また、正義感から書いている人は書き込む量が極めて多い事実もわかった。1件の炎上あたりに書き込む回数が、その他の理由から書き込む人より5回も多いという結果がでた。

山口氏の実証研究は、フェイクニュースを対象とした調査分析ではない。だが、フェイクニュースが拡散されたときのコメントを見ると、炎上の書き込みと同じように、多くの人が正義感からやっているように思えると山口氏は述べている。

正義感は強い感情だ。正しいと思って批判したり、善意を持って広めたりしているとき、人は大きなエネルギーを持つ。多くの人が悪ふざけや、故意に騙そうと思ってやっているわけではないため、フェイクニュースが拡散し続けるのだ。

正義感に囚われた人はまわりが見えなくなる。その情報が正しいのか、誤っているのかをろくに検証をせず、右から左へと流れ作業のようにフェイクニュースを流してしまうのだ。

これら5つの理由が重なって、フェイクニュースは拡散される。

フェイクニュースが拡散する条件

フェイクニュースには拡散する条件がある。

フェイクニュースが拡散されるのは、ある話題について世間のの関心が高いタイミングだ。選挙や移民、災害など、その時々で人々の関心が高い問題ほどフェイクニュースは作られる。

意見が対立しやすいニュースもフェイクニュースの対象となりやすい。支持政党や、移民に対する考え方、ジェンダーに対する態度など、世の中には意見が対立する話題が多い。対立構造があると、自分とは反対の意見を持つ人を批判するために積極的にフェイクニュースを集め、広く拡散する。

僕たちは気づかぬうちにフェイクニュースに触れている可能性がある。大手のマスメディアだから正しい、信用していいというわけではないのだ。

まだ表面化していないだけで、ネット上には多くのフェイクニュースを流し、世論を誘導しようとしている業者があるかもしれない。心に留めておきたい。

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参考文献:Harvard Business Review January 2019 p63〜p73『フェイクニュースの正体と情報社会の未来』山口真一

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