本当か嘘か、見分ける目が必要だ! フェイクニュース対策を考える

本当か嘘か、見分ける目が必要だ! フェイクニュース対策を考える

欧米を中心にフェイクニュースが社会問題になっている。フェイクニュース対策が急務だ。

2016年のアメリカ大統領選では、さまざまなフェイクニュースがSNSを駆け巡った。その結果、フェイクニュースがトランプ大統領を生んだ、とまで言われている。ヨーロッパでは、移民や難民を差別するフェイクニュースが広まり、人々の不安をあおっている。

フェイクニュースが影響を及ぼすは、社会や政治の問題だけではない。企業や個人もフェイクニュースの被害を受けている。海外の企業では、すでにフェイクニュース対策が進む。日本の企業は、まだどこか他人事のようだが。

テレビで見たニュースや、ネットで読んだ記事がフェイクニュースかもしれない。個人ではどういった対策ができるのだろう?

※この記事は、国際大学の山口真一氏がHarvard Business Reviewに寄稿した『フェイクニュースの正体と情報社会の未来』を参考に作成している。

フェイクニュースには定義があるのか

「フェイクニュースには定義が存在しない」。山口氏は寄稿の中でそう述べている。

その理由は、「真実・本物(genuine・real)」や「フェイク(fake)」といった言葉には幅広い意味があり、ひとつに定めるのがむずかしいからだという。

真実とは、間違いなく起こっている物事や、科学的に証明された現象であると思うだろう。だが現実には、真偽を判断するのが人間であるかぎり、真実はひとつではない。誰が判断するかによって、何を真実とするのかは異なるからだ。

ある人には真実だが、ある人には真実ではない、ということが起こり得るのだ。

フェイクニュースの定義が曖昧であるため、「都合が悪いものをフェイクニュースと批判する」といった現象まで起きている。その典型がアメリカのトランプ大統領だ。彼はメディアによる自身への批判に対して「フェイクニュース」だと反論する。支持者には「フェイクニュースを信じるな」と呼びかける。

フェイクニュースが政治・社会に及ぼす影響

フェイクニュースが蔓延すると、社会や政治はどうなるのか。考えうる影響は次の3点だ。

1つ目は人種や階級、政治間における対立の激化だ。欧米では、移民や難民を差別するフェイクニュースや、ある政党に有利なフェイクニュースが後を絶たない。人種や階級、政治間における溝が深まり、激しい争いが起こっている。

日本も今後、欧米と同様の問題に直面する可能性が高い。日本は、労働力確保のために外国人労働者を増やす予定だ。また、社会格差も広がっている。争いの火種はそこら中でくすぶっているのだ。

2つ目はポピュリズムの台頭だ。ポピュリズムとは、国家主導で民族主義的な政策を進める政治運動をいう。自分の国を第一に考える政治だ。

自国を愛するのは良いことだが、ポピュリズムには問題もある。極論では、自国が得をするなら他国が不幸になってもいいという考え方だからだ。各国が好き勝手に動けば、移民や紛争、環境など、地球規模の問題が解決しないどころか、さらに悪化するだろう。

すでにその兆しがある。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領誕生など、欧州を中心にポピュリズムが台頭してきている。そういったイベントのたびに、愛国心をあおるようなフェイクニュースが広く拡散されたとの指摘があるのだ。

3つ目はインターネットの価値の毀損だ。虚偽の情報が存在するという事実は、ネット上にある他の情報の信頼性をも失わせる。

インターネットは、誰もが自由に、不特定多数に情報を発信できる便利なツールだ。しかし、一部のフェイクニュースのために、ネット上の他の情報が信頼を損うのは社会的損失といえる。

フェイクニュースに踊らされる企業と個人

もう少し目線を下げてみよう。企業や個人にはどんな被害があるのか。

具体例をあげよう。アメリカのスターバックスが偽クーポンを拡散された事例がある。「スターバックス・ドリーマー・デイ」と名付けられた偽クーポンが2017年8月、ツイッターなどで拡散した。その内容はクーポンを持った不法移民はスターバックスのあらゆるメニューが40%オフになるというものだった。

スターバックスドリーマーデイ

「ドリーマー」とは幼少の頃、親に連れられてアメリカに渡ってきた不法移民の若者を指す言葉だ。

フェイクニュースが拡散した8月は、ドリーマーへの国民の関心が高まっていた時期だ。オバマ前大統領が導入したドリーマーを強制退去の対象としない移民救済制度を、トランプ大統領が9月破棄を表明していたからだ。

偽クーポンを計画したのは英語圏の匿名掲示板「4ch」(日本の2chや5chみたいなところ)。だまされたドリーマーたちが8月11日にスターバックスに集まったところを、不法移民取り締まりを管轄する移民税関捜査局に通報するという筋書きだったようだ。

Starbucks shoots down viral rumor that it’s giving away free coffee to undocumented immigrants – BUSINESS INSIDER

企業が被害を被った事例は日本にもある。ローソンチケットのキャンセル騒動だ。

「ローチケで買ったミュージカルのチケットが、取り消し手続きもしていないのにキャンセルになった」。ある消費者がツイッターでつぶやいたのがきっかけだ。

SNSは炎上した。この投稿は拡散され、SNSにはローチケ側の対応を非難する書き込みが相次いのだ。しかし、事実確認の結果、ウソの投稿だったことが判明した。

企業側は踏んだり蹴ったりだ。対応に追われたばかりか、このニュースを見た人のなかには、いまだにローチケ側に問題があったと思っている人もいるだろう。

ローチケ「キャンセル騒動」、会社は「事実なし」 否定の根拠は?担当者に質問すると… – JCASTニュース

消費者が発信するフェイクニュースを企業が事前に防ぐのはむずかしい。企業は、ニュースがある程度拡散しないかぎり、それに気づくのは困難だ。対応はどうしても後手にまわる。

誤解、目立ちたい、企業を批判したい、店で嫌な思いをしたなど、嘘をついた側には、なにかしらの不満があるのだろうが、企業を中傷するフェイクニュースを発信するのは卑怯で、間違った手段だ。

また、クチコミ(レビュー)の問題も深刻だ。2012年には、クチコミサイト「食べログ」内でクチコミ投稿を有料で請け負う事業者の存在が発覚。大きな問題となった。

「食べログ」にやらせ投稿 カカクコムが法的措置も 39業者特定 飲食店ランキング上げる狙い – 日本経済新聞

アマゾンでも「やらせレビュー」が問題視された。アマゾンは2016年10月にレビューのガイドラインを厳しく改定。商品の提供を引き換えにコメントするのを禁止した。

アマゾン・レビュー、“やらせ汚染”が深刻化…業者からレビュアーへの報酬支払いの実態 – Business Journal

ネットによる恩恵は、ネット上の情報に価値があるから成立するものだ。フェイクニュースが蔓延し、ネット上の情報が信頼を失えば、ネットの良い面も消えてしまう。

フェイクニュース対策を考える

では、フェイクニュースにはどのような対策ができるのか?

「個人や企業が完璧にその被害を予防するのは、現状ではむずかしい」。山口氏はそう述べている。

その理由は、ニュースのタイトルしか読まない人や、出典を確認せずに拡散する人がいるからだという。

SNSでは、ニュースの59%がクリックされずに拡散されているという研究結果がある。ある物事に対して強い悪意を持つ人や、記事を見てもらうことでお金を稼いでいる人がフェイクニュースを流し続けたら、それが真実として広まるのだ。

個人や企業は後手に回らざるを得ない。拡散に気づいたのち、それがフェイクニュースであると訴えるしかないのだ。

しかし、事実だと一度、認識されたものを訂正するのは困難だ。

それを象徴する事件がドイツで起こった。地方紙の記者が、年越しで花火を楽しむ市民の様子を記事と動画で伝えた。その記事の動画を、オーストリアのニュースサイトが「移民が教会に火をつけた」という記事で引用した。ドイツの記者が書いた記事とは全く異なる文脈で引用されたのだ。

このフェイクニュースは世界中に拡散した。SNSでは2万5000件もシェアされた。ドイツ人記者は反論記事を書いたが、その記事は国内を中心に500件しかシェアされなかった。誤った情報を打ち消すことができなかったのだ。事実を捻じ曲げた記事は、今もなお、さまざまな形で引用され続けているようだ。

フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ – NHKクローズアップ現代

フェイクニュースは法律で規制できないのか? なにがフェイクニュースかを定義するのがむずかしいのだ。

真実かどうかの判定は、判断する人の価値観に大きく依存する。法律を作る人や、法の執行者に判断が委ねられるのは危険だ。規制するのは表現の自由を脅かされるリスクがある。

また、政権によっては都合のいいように拡大解釈され、やがては政権を批判する記事はすべてフェイクニュースとして取り締まられる可能性もある。戦時中のような言論統制が起こるかもしれないのだ。

フェイクニュース対策に乗り出した海外の企業

フェイクニュースを作る側を取り締まるのがむずかしいのなら、情報を受け取る側が意識を変えるしかない。海外の企業では、フェイクニュースを取り締まる取り組みがすでに始まっている。ファクトチェックの動きだ。

グーグルは、フェイクニュースとヘイトスピーチが検索上位に掲載されないように2017年4月、検索エンジンの仕様を変更した。アップデートのたびにその精度は高まっていくだろう。

Google 検索における最新の品質向上について – Google ウェブマスター向け公式ブログ

2016年のアメリカ大統領選挙以降、フェイスブックもファクトチェックに力を入れている。同社が採用したのは、人間と学習機能を持ったAIが協力して、フェイクニュースをチェックするシステムだ。その範囲は記事だけではなく、写真や動画まで及ぶ。

その結果、2017年以降は、フェイスブック上でのフェイクニュースに対するエンゲージメント数(いいねやシェアの数)は減少。同社はフェイクニュースが約80%減ったと報告している。

Facebookがファクトチェックを強化。新技術を導入してフェイクニュースと戦う – TechCrunch Japan

欧米では旧来型マスメディアも対策を進めている。BBCは報道されたニュースを事実かどうか検証する「リアリティチェックチーム」を設けた。英国がEU離脱に関する国民投票をおこなったタイミングだ。

BBC、「スローニュース」戦略で フェイクニュース対策:連載「リアリティーチェック」の狙い – DIGIDAY

また、フランス大統領選挙前には、英仏のメディア各社が連携してニュースを検証するサイト「CrossCheck(クロスチェック)」を立ち上げた。

クロスチェック

仏英パブリッシャー37社、フェイクニュース対策で一致協力:事実確認サイト「クロスチェック」が始動 – DIGIDAY

CrossCheck(クロスチェック) – First Draft and Google News Lab

アメリカはどうか。アメリカにはすでに「Snopes.com(スノープス)」がある。スノープスは1994年に活動を開始したファクトフェックの先駆け的存在だ。2006年にはインターネット界で最も名誉ある賞「The Webby Awards(ウェビー賞)」を受賞している。

スノープス

Snopes(スノープス)

ウェビー賞 – フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ファクトチェックの動きは、世界で広まりつつあるのだ。

個人ができるフェイクニュース対策

では、個人ではなにができるのか? 具体的には、情報の質、真偽、偏りを今以上に意識するのが大事だ。

真実かどうか、すべての情報を確かめるのは不可能だ。だが、入手する情報について、「偏っているかもしれない」「自分が見たい情報だけを見ているかもしれない」「デマかもしれない」と疑って接することはできる。

「この情報はフェイクニュースかもしれない」。疑いの目を持っているのと持っていないのとでは、フェイクニュースに踊らされる割合は大きく異なる。

日本人のメディアリテラシーは高まってきている。この記事では、SNSの悪い面ばかりを取り上げているが、そんなことはない。フェイクニュースに個人が対抗できる手段も、またSNSだ。最近では、大手メディアが世論を誘導する記事を書いても、その嘘がSNSで暴かれる流れができてきた。これはよい傾向だ。

情報化社会では、あらゆる情報が無料で手に入る。だが日本には「ただより高いものはない」ということわざがある。このような時代だからこそ、その情報が本当なのか嘘なのか、利用者には見分ける目が必要だ。

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参考文献:Harvard Business Review January 2019 p63〜p73『フェイクニュースの正体と情報社会の未来』山口真一

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