フェイクニュースでお金を儲ける!? マケドニアの若者のすごい稼ぎ方

フェイクニュースでお金を儲ける!? マケドニアの若者のすごい稼ぎ方

フェイクニュースがトランプ大統領を誕生させた。2016年のアメリカ大統領選挙では、そういった指摘があった。指摘を裏付けるデータもある。フェイクニュースがトランプに味方したのは、間違いなさそうだ。

ここまでよく知られた話だ。だが、大統領選挙の裏で暗躍したのがマケドニアの若者たちだというのは、あまり知られていないだろう。にわかに信じがたいが、マケドニアにはフェイクニュースを作る町があるのだ。

彼らが政治に関心を持っているわけではない。彼らはただお金を稼ぐために、フェイクニュースを作っているのだ。

どのようにして、フェイクニュースでお金を儲けるのか? この記事では、マケドニアの若者のすごい稼ぎ方を紹介する。

マケドニアの若者がフェイクニュースを作る理由

フェイクニュースは、なぜ大量に作られるのか?

支持する政治家を勝たせるためだろうか。あるいは、移民や難民をめぐる政策が気に入らないからだろうか。

なかには、そういった意図で作られたフェイクニュースもある。だが、それはごく一部だ。フェイクニュースが作られるもっとも大きな理由は「お金のため」なのだ。

マケドニアにあるフェイクニュースを作る町

マケドニアにはフェイクニュースを作る町がある。マケドニアは、アメリカから9000キロ以上も離れた東欧の小さな国だ。

マケドニア

この町では、200人以上の若者がフェイクニュース作りに手を染め、多額の広告収入を得ている。彼らはホームページの作り方を独学で学び、こなれた英語を使いこなし、アメリカ国民に向けたフェイクニュースを作り続けているのだ。

これは本当の話だ。フェイクニュースではない。

2016年のアメリカ大統領選挙では、マケドニアに住む学生たちが、膨大な数のフェイクニュースを作っていたのがわかっている。アメリカのニュースサイトによると、マケドニアの小さな町ヴァレス(人口4万5000人)では、100以上ものトランプに有利な(トランプの支持者やアメリカの保守派を狙った)政治情報サイトが運営されていたのが見つかったという。

もっとも成功しているウェブサイトのフェイスブックページは、何十万ものフォロワーを誇る。記事のほとんどはフェイクニュースなのだが。

政治には興味がない

彼らは政治に興味を持っているわけでも、トランプを勝たせたかったわけでもない。彼らの狙いは、記事の拡散による莫大な広告収入だ。

あるサイトでは、トップ5記事うち4記事がフェイクニュースだった。

「the pope endorsed Trump(ローマ法王がトランプを支持)」「Mike Pence said Michelle Obama is the “most vulgar first lady we’ve ever had.”(マイク・ペンスは、ミシェル・オバマがこれまでで“もっとも下品なファーストレディ”であると語った)」を含む4つのフェイクニュースは、フェイスブックで100万以上のシェアを得ている。

このウェブサイトは、サイトの所有者に多くの広告収入をもたらした。だがその裏では、多くのアメリカ人を誤解させたのだ。

マケドニアの若者がフェイクニュース作りに手を染める背景

ヴェレスは豊かな町ではない。平均収入は5万円程度だ。道路を行き交う車には、凹みやキズが目立つ。なかには、バンパーが外れたスクラップ同然の車もある。

フェイクニュース作りに手を染めるのは、きびしい経済状況からだ。マケドニアが旧ユーゴスラビアの一部だった時代には、ヴァレスは栄えていた。国営の工場が集まる工業地帯だった。だが、ユーゴスラビアが解体した現在は、工場が次々と閉鎖。失業率は30%にのぼる。

若者たちは親には頼れず、お金は自分で稼ぐしかない。その手段がフェイクニュースだ。ヴァレスは活気を取り戻した。BMWやベンツなどの高級車が、2016年から増え始めた。所有者は20代の若者たちだ。

1ヶ月で親の年収以上を稼ぐ若者もいる

もっとも利益を上げたのは、2016年にウェブサイトを立ち上げた若者たちだ。彼らのひとりは、ひと月に5000ドル(55万円:1ドル110円換算)を稼いだ。フェイスブックがバズした(話題を集めた)ときには、1日に3000ドル(33万円)以上を稼ぐこともあったという。

現在はどうか。トランプに有利なサイトが急増した結果、2016年をピークに市場が飽和し、以前よりはお金を稼ぐのがむずかしくなっているようだ。

企業もフェイクニュースを潰しにかかっている。2016年のアメリカ大統領選挙のあと、グーグルやフェイスブックは、フェイクニュース対策を強化した。ヴァレスの若者たちが運営するサイトやアカウントを次々と閉鎖に追い込んだ。

だか、彼らはフェイクニュースを作り続けている。締め付けがきびしくなった今でも、他の仕事よりはフェイクニュース作りのほうが儲かるのだ。

お金以外の理由もある

お金以外にも彼らを動かすものがある。それはプライドだ。

彼らは、マケドニアという小さな国の若者たちが、フェイスブックやグーグル、そしてアメリカ人を手玉にとり、お金を稼いでいる事実に誇りを持っている。

ある若者は言う。「世界の多くの人たちは、マケドニアを原始的な国だと考えている。だけど、それは真実ではない」。

彼らには、アメリカ人を馬鹿にしている節もある。ありえないような記事を書いているのに、それを読む人がこんなにもいる。たくさんのお金を彼らに届けるからだ。

マケドニアの若者のすごい稼ぎ方

彼らの稼ぎ方はこうだ。

記事のほとんどは、アメリカの右翼サイトなどから盗作したり、寄せ集めたりした情報だ。彼らは経験から、右翼的なテーマほど拡散されやすいのを知っている。トランプが有利になるフェイクニュースがウェブサイトの大半を占めるのはそのためだ。

記事には、センセーショナルな見出し(タイトル)をつける。人々の興味を引くためには、タイトルがとにかく重要なのだ。

たとえば、「トランプが『メキシコ国境に壁を作る』と言った」というタイトルでは、アクセスが見込めない。大手マスメディアが同じような記事を書いているからだ。

そこで嘘を混ぜる。「トランプが『ネバダ州の砂漠に強制収容所を作る』と言った」のように。タイトルを過激にするほど、アクセスは伸びる。広告収入は一気に増えるのだ。

しだいに真実の部分が少なくなっていく。最後には、タイトル、内容、写真、すべてが嘘まみれのフェイクニュースができあがるのだ。

また、どんな言葉を使うのかも重要だ。「大きい」や「たくさん」といった普通の言葉を使ってはいけない。「途方もない」「計り知れない」「壮大なスケールの」「天井知らずの」など、大げさな言葉を使うのが正解だ。さらには、「ここだけの」「速報」「衝撃」などの言葉を加える。そうすれば、クリック獲得は間違いなしだ。

ウェブサイトに公開すると同時に、フェイスブックにも投稿する。拡散のためだ。読者が増えるほど、広告をクリックする確率が高くなる。より多くの広告料が稼げるのだ。

投稿する時間帯にも気を配る。マケドニアとアメリカとは、時差があるからだ。アメリカ時間に合わせて投稿するなど、彼らは細かな工夫を重ねる。

彼らが使う方法は、珍しいものではない。大部分のウェブサイトは、記事に広告を埋め込み、多くの人がアクセスして広告をクリックすると、発信者に収入が入る仕組みになっている。注目を集めるために、大げさなタイトルをつけている記事も多い。あいまいな情報や間違った情報を載せているサイトもある。

だが、他のウェブサイトとは決定的に違う部分がある。それは、意図してフェイクニュースを流しているところだ。

彼らの作るフェイクニュースを見てみよう

では、ひとつ記事を紹介しよう。

フェイクニュースの事例

ConservativeState.comの『Hillary Clinton In 2013: “I Would Like To See People Like Donald Trump Run For Office; They’re Honest And Can’t Be Bought.”(ヒラリー・クリントンは2013年、ドナルド・トランプのような人物が選挙に立候補するのを見たいと言った。彼らは誠実だし、買収されないから)』というタイトルの記事だ。

この記事は大きく話題になった。公開後の1週間で、フェイスブックで48万ものシェアを得たのだ。ニューヨークタイムズ紙の独占記事「トランプが1995年度の所得税申告で9億1600万ドルの損失がでることを明らかにした」(1ヶ月で17.5万のシェア)と比べると、反響の大きさがわかる。

この記事は、TheRightists.comからの盗用だ。TheRightists.comは、事実と作り話を混ぜたゴシップサイトで、「私たちの記事がすべて正しいとは限らないよ」と宣言している。つまり、ConservativeState.comの記事は、フェイクニュースをパクったフェイクニュースなのだ。(説明がわかりにくいかもしれないが、とにかくフェイクニュースだ)。

TheRightists.comの記事は、アメリカのファクトチェックサイト『Snopes』がフェイクニュースだと証明している。ヒラリー・クリントンが、成功したビジネスマンが政治に参入するのを望んでいると述べたのは事実だが、トランプについては何も語っていない。

スノープスのファクトチェック

FACT CHECK: Did Hillary Clinton Say ‘I Would Like to See People Like Donald Trump Run for Office’? – Snopes

選挙とは関係ない記事も、ひとつ紹介しよう。「Do Color Codes on Toothpaste Tubes Identify Their Ingredients?(歯磨き粉のカラーコードは成分を明らかにするのか?)」というタイトルの記事だ。

フェイクニュースの事例

FACT CHECK: Do Color Codes on Toothpaste Tubes Identify Their Ingredients?

この記事は世界中で1億回以上も読まれた。作成者には1000万円をもたらした。

作ったのは、若者たちにフェイクニュース作りを教える先生だ。彼の名刺には「トランプ大統領の誕生を手伝った男」と書かれている。

意訳すると、内容はこうだ。

「歯磨き粉を買うときには注意しよう。歯磨き粉チューブの底には色がついている。その本当の意味を知っているかい? 4色あるけれど、緑か青を選ぶのが正解だよ。緑はナチュラル。青は薬を、赤は化学物質を混ぜている。黒は化学物質そのもの。さあ、みんなに広めよう」

スノープスのファクトチェック

もちろん、フェイクニュースだ。

人々がフェイクニュースに騙される理由

なぜ、人はフェイクニュースに騙されるのか?

その理由はネットの仕組みにある。ネット社会では、ニュースはメディア単位ではなく、記事単位で読まれる。「〇〇新聞を読んでいたら××というニュースを知った」ではなく、「××を調べていたら、〇〇というウェブサイトにたどり着いた」という形をとる。

インターネットが発達するまでは、メディア単位で情報を得るのが主流だった。情報を得る手段は、新聞や雑誌、本、テレビだった。

当時は、ほとんどのメディアが記事の質の向上を目指していた。メディア自体を顧客が信用しなくなると、売り上げが落ち、収入が減ったからだ。フェイクニュースを載せるのは、メディアの評判を下げ、顧客離れを加速させる行為だった。悪手でしかなかったのだ。

だが、ネット社会は違う。インターネットの世界では、検索エンジンの上位に記事を載せ、PV数を稼ぐのが、収入を増加させるには重要だ。

検索エンジンが表示するのは、記事単位だ。メディア自体の質はそれほど重視されない。大手のメディアが書いた記事であろうと、素人が書いた記事であろうと、検索上位にある記事を人々は読むのだ。

企業の戦略が変わったのだ。企業は、低コストで記事を大量に作り、SEO(検索エンジン最適化)によって検索上位を目指すようになった。

2016年に話題になったキュレーションメディアがそうだ。DeNAが運営するキュレーションサイトが、他サイトや文献からの盗作を指摘された。運営側は、SEO対策に多くのコストをかける一方、記事はクラウドソーシングなどに外注し、素人同然のライターに安い価格で書かせていた。1文字1円以下の記事を、誰がまじめに書くのだろうか。

フェイクニュースが大量に生み出される背景には、こういった経済の原理が働いている。そして人々は騙されるのだ。

フェイクニュースはなくならない

相手が世間体を気にする企業の場合は、批判の声が大きくなれば撤退する。DeNAは事件後、キュレーションメディア事業をやめた。

だが、個人がやっている場合は別だ。彼らには失うものがない。フェイクニュースを作って得られる対価のほうがはるかに大きいのだ。

明日の食事にさえ不自由するマケドニアの若者に、「アメリカの政治を混乱させるフェイクニュースはやめよう」とモラルを説いたところで、聞き入れるだろうか。まったく効果はないのだ。

マケドニアの若者は言う。「トランプが負けたら、スポーツのサイトに作り変えるつもりだ。政治には価値がなくなるからね」。

彼らは、2020年のアメリカ大統領選挙を待っている。

本当か嘘か、見分ける目が必要だ! フェイクニュース対策を考える

日本にも事例が? フェイクニュースが拡散する5つの理由

参考にした文献とウェブサイト:

フェイクニュースでお金を儲ける!? マケドニアの若者のすごい稼ぎ方