慶事は前もって予定されていることが多く、出席者には礼儀やしきたりを重んじた行動が求められる。慶事でのマナー知らずの行動は、自分が恥をかくだけではなく、相手の気持ちを傷つけ、信頼関係を損ねる恐れがあるのだ。
とくに会社の代表として結婚式やパーティーなどに出席するときには、よりいっそうマナーには気をつけたい。
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慶事とは
慶事とはお祝いごとのことだ。誕生、入学、結婚、新築、長寿など、人生の節目にはさまざまなお祝いがある。ビジネスでは、開業、開店、上場、新社屋の完成、新社長の就任などが慶事にあたる。
おめでたい出来事をみんなで喜ぶのが、慶事の目的だ。祝福の気持ちを相手に伝え、交流を深める場だと考えるといい。これは人と人との付き合いでも、会社と会社の付き合いでも同じだ。
「本日はお日柄もよく」といわれるように、慶事には縁起を担ぎ、吉日を選ぶ習わしがある。先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の六曜では、仏滅を避け、大安か友引が好まれる。慶事の案内状には「〇月吉日」と書くことが多い。
慶事に関する業務
慶事に関する業務には、次のようなものがある。
自社側のお祝いごとの場合
- あいさつ状の送付
- 取引先・顧客への連絡
- 式典の準備(招待状の作成、記念品の準備、当日の社員の役割分担など)
自社社員のお祝いごとの場合
- お祝い金(ご祝儀)
- 結婚式などの出席・祝電
関係先のお祝いごとの場合
- お祝いの手紙・電話・祝電
- お祝いの品や花の贈呈
- 招待状の返事
- 式典の参加
慶事のマナー
自社側の慶事を知らせるときのマナー
自社に関する慶事の場合、すでに段取りはできているので、関係者に知らせるタイミングに気を配るだけでいい。本社の移転など、多くの人に関わるときには、あいさつ状・移転通知・ホームページへの掲載などを合わせておこなう。
あいさつ状
取引先に対する正式なあいさつは、社長名で書いた書類を封筒に入れ、先方の社長宛てに郵送するのがマナーだ。
取引先の担当者への移転通知
本社ビルの移転などでは、先方の業務に支障がでないように、メールやFAXなどで知らせるのがマナーだ。あいさつ文をA4サイズに印刷したものを、請求書などに入れる場合もある。
ホームページへの掲載
ホームページでは、社長のあいさつ文とともに告知するのがマナーだ。
取引先の慶事を知ったときのマナー
取引先の慶事は、先方からのあいさつ状のほか、新聞などのニュースや関係者からの情報で知ることがある。自分の業務に関係がある会社の情報には、日頃から目を光らせておきたい。慶事を知ったら、すぐにお祝いの気持ちを伝えるのがマナーだ。
会社のトップが出向き、直接お祝いを伝えるのがいちばん正式で丁寧なやり方だが、通常は祝電を利用する。相手との関係や立場によっては、手紙や電話で伝えることもある。
花を送る場合は、立て札とメッセージカードにお祝いの言葉をそえる。慶事では胡蝶蘭(こちょうらん)を送るのが一般的だ。花の金額は3万円前後が相場だが、相手企業の大きさや自社との関係をみて決めるといい。
取引先・関係先の祝賀行事に出席するときのマナー
取引先や関係先から届いた祝賀行事の案内状には、なるべくはやく返事をするのがマナーだ。返信ハガキの書くときには、次の点に注意したい。
- ハガキの表面では、宛先の下の「行」を縦の二重線で消し、横に「様」を書く。宛先が個人名ではなく、部署名や〇〇係などとなっているときには「御中」を使う。
- ハガキの裏面では、出席または欠席を丸で囲み、不要な文字を二重線で消す。たとえば結婚披露宴の招待状では、出席なら、ご出席の「ご」、ご欠席の「ご欠席」、ご住所の「ご」、ご芳名の「ご芳」を消し、出席に丸をつける。
- 余白にはお祝いの言葉を書き添えると丁寧だ。お祝いの言葉など、改まった文章では、句点「。」は打たない。
祝賀行事に出席する場合、次のことで迷ったら、先方の担当者に相談し、意向を伺うといい。
- 式典の出席者
- 祝電や贈り物の手配
- 手伝いの有無
欠席する場合は、祝電やお祝いの花などを手配する。
式典に参加するときは、受付で社名と指名を名乗り、手短にお祝いの言葉を述べる。お祝いの言葉には次のものがある。
- ご〇〇おめでとうございます
- 心よりお喜び申し上げます
- ますますのご発展(ご健勝)をお祈りいたします
- 本日はお招きいただきありがとうございます
- 末長くお幸せに
上司の代わりに出席する場合は、記帳では上司(または招待者)の名前を書き、縦書きでは左下、横書きでは右下に「代」あるいは「代理」と書く。ときには名刺を求められることもある。
ご祝儀を持っていく場合は、新札を用意する。祝儀袋に入れてふくさに包んで持ち歩く。会員制のときは、祝儀はいらない。
祝電のマナー
祝電は次のときに送る。
- 相手先の慶事を知り、祝意を伝えたいとき
- 祝賀行事に招待されたが、出席できないとき
企業から企業に送る場合は、自社の社名と社長名で、相手先の社名と社長宛に送るのがマナーだ。個人宛に送る場合は、ふさわしい立場(役職)の個人名、あるいは「〇〇会社従業員一同」として送ることもある。
祝電では、おめでたい気分を壊さないように「忌み言葉」は避ける。
- 開業・開店祝いでの忌み言葉 失う・傾く・さびれる・倒れる・つぶれる・負ける(赤や紅など、赤字を連想させる言葉もNG)
- 落成・新築祝いの忌み言葉 焼ける・燃える・倒れる・傾く・つぶれる(火や煙、赤など、家事を連想させる言葉もNG)
- 長寿祝いでの忌み言葉 衰える・折れる・枯れる・朽ちる・根付く・死ぬ
- 結婚式での忌み言葉 浅い・飽きる・終わる・帰る・切れる・去る・散る・出る・離れる・別れる・分かれる・冷える・割れる(「ますます」「たびたび」などの重ね言葉や、「再び」「繰り返す」「もう一度」などの繰り返しを連想させる言葉もNG)
お祝いの言葉は、文例そのままではなく、相手との関係や状況をふまえて少しアレンジを加えるほうが、より気持ちが伝わりやすい。
電報の打ち方は、NTTの場合、局番なしの「115」に電話する、あるいはインターネットから申し込む。お祝い言葉の文例や、祝電用の台紙は用意されているので、電話では専用オペレーターの指示通りに、ネットでは順番通りに進めていけば簡単に申し込みが可能だ。19時までに申し込むと、当日に配達してくれる。
NTT以外にもさまざまな民間業者がある。
さまざまな慶事ごとのマナー
開業・開店・新社屋の完成
お祝いは、胡蝶蘭や観葉植物、お酒、絵画、置物、時計などを贈るのが一般的だ。ものによっては、置くスペースがなかったり、他のインテリアと合わなかったりする。心配なら、先方の担当者に相談したほうがいい。火を連想させるものを贈るのはタブーだ。
上場
新規株式公開などでは、船出を祝う意味で派手にお祝いする企業が多い。
花などを贈る場合は、立て札が「のし」の代わりになる。立て札には「祝上場」「上場御祝」と、差出人の名前を書く。証券取引所名は書かなくても失礼にはならない。
就任・栄転・昇格
取引先の役員就任や、担当者の栄転などでは、会社として祝電やお祝いの花を贈るなどの心づかいが必要なことがある。自分の仕事に関わる企業の人事異動は、日頃から新聞やホームページなどで確かめておきたい。
上司・先輩の栄転や役員就任では、職場の慣例に従い、あまり大げさにしないほうがいい。連名で記念に残るモノを贈ると喜ばれる。
お祝いには、お酒や、万年筆などの高級文具、ネクタイやタイピンなどが適している。目上の人に現金を贈るのは失礼にあたるため、代わりとして商品券も使われる。
受賞・受章
受賞は、民間の賞を受けること。受章は、国から勲章や褒章を受け取ることをいう。勲章は国家や社会に対する功労者を表彰するもの、褒章は社会・公共・文化に尽くした人を表彰するものだ。
受賞、受章は、いずれも大変名誉なことだ。賞を受けることがわかったら、すぐに祝福の気持ちを伝えたい。受賞(受章)の直後は、相手も混乱していることが多い。身内以外は電話での連絡は避け、祝電を打つのがいいだろう。
お祝いの品は、受賞(受章)のあと、2週間以内に直接届ける、または送るようにする。送る場合は、お祝いの手紙を添えるといい。
結婚
ご祝儀やお祝い品の相場は、自分の年齢や立場によって違う。結婚披露宴に招待されているかどうかでも変わるため、ご祝儀やお祝い品を贈るのは、少し待ってからのほうがいい。
得意先や取引先の人の結婚披露宴に参列する場合は、芳名帳や祝儀袋にも社名を記入する。会社や部署を代表して招待された場合は、会社としてご祝儀を出すこともある。上司や総務に相談するといいだろう。
自社の社員の場合は、職場のメンバーと相談して、お祝い金やお祝い品をまとめて贈るのも喜ばれる。
お金(ご祝儀)は当日持っていってもいいが、お祝い品は前もって贈っておくのがマナーだ。
出産
出産祝いは、出産後の母子の健康を確かめてから贈るのがマナーだ。お祝いを贈るタイミングは、お七夜(生後7日)からお宮参り(生後1ヶ月)までのあいだとされる。ところが、この時期は母子ともに体調が落ち着かないことが多いため、お祝いは郵送または宅配で贈るのが好ましい。
出産祝いは、現金や商品券のほか、ベビー服やおもちゃ、ベビー用品などが一般的だ。
慶事の身だしなみ
慶事では、晴れの集まりにふさわしい、きちんとした服装で出席するのがマナーだ。主役がいる場合は、主役より格上の服装にならないように気をつけること。慶事では主役を立てるのもマナーだ。
礼装の種類
礼装には、もっとも格の高い正礼装とそれに準ずる準礼装、前のふたつの細部を省いた略礼装がある。正礼装は主役(結婚披露宴では新郎新婦とその両親、媒酌人夫妻)が着るもの。一般の招待客はそれより格下の礼装にするのがマナーだ。
服装のルールは、出席する式やパーティーの格式または時間帯でも異なるので気をつけたい。
女性の洋装のルール
女性の洋装は、正礼装→準礼装→略礼装の順で上半身の肌の露出は少なくなるが、スカートなどの丈は逆に短くなる。昼と夜では、昼のほうが肌の露出が少なく、光る素材や華やかな宝石は避ける傾向がある。
きちんとしたパーティーや結婚披露宴では準礼装を着るのが一般的だ。ワンピースやドレッシーなスーツなどの略礼装は、通常のパーティーや「平服」指定の集まりに適している。
結婚披露宴に一般招待客として参列するときは、黒一色や白(花嫁とかぶるため)のドレスは避ける。昼の式では、あまり肌を出さない。肩が出るドレスはショールやボレロなどを羽織る。
男性の洋装のルール
男性の正礼装はモーニング(昼)と燕尾服(夜)。これを着るのは主役のみだ。
準礼装はタキシードまたはディレクターズスーツで、夜はブラックの蝶ネクタイ、昼はシルバーグレーあるいは白黒のストライプのネクタイが基本となる。主賓クラスが着ることが多い。
略礼服はブラックスーツ。シャツやネクタイ、ベストで変化をつけらることから、いろいろな用途で使える。黒以外のダークスーツはカジュアルな印象になる。
結婚披露宴に一般客として参列するときには、ネクタイはシルバーグレーまたは白黒のストライプをしめる。夜は黒の蝶ネクタイでもいい。ブラックスーツはチーフやベストで華やかさを出す。
慶事のマナーでよくある疑問
結婚のご祝儀に2万円はダメ?
ご祝儀で奇数の金額が好まれるのは、陰陽道では奇数がおめでたい数とされているのと、2で割り切れる数字は別れをイメージさせるからだ。けれど、結婚式のお祝いでは、2は「ペア」を連想させるよい数字という考え方もあるため、最近では2万円でも許されるようになってきている。
招待状に平服と書いてあるときの服装の目安は?
平服とは、礼装でなくてもよいという意味だ。普段着でよいというわけではない。平服と書いてあるときは、男性はビジネススーツ、女性はワンピースやスーツを着ていくのが一般的だ。服装が地味になりすぎるようなら、ポケットチーフやコサージュなどで華やかさを出すといい。
内祝いってなに?
内祝いは、身内や親しい者だけでするお祝いのことだ。身内におめでたいことがあったとき、よろこびを分かち合うために行う。お祝いの品をもらったときのお礼にも使う言葉だ。
たとえば、病気が治ったときあとに贈る快気祝も内祝いのひとつだ。快気祝は、お見舞いをもらった人にお返しをおくるときの表書きとして使う。病気が治った相手に対しておくるお祝いではないので、気をつけたいところだ。