弔事は、突然訪れることが多い。通夜・葬儀・告別式など、弔問のときの服装や香典の準備、弔電の打ち方、焼香の作法など、いざというときのために基本的なマナーは身につけておきたい。
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通夜・葬儀・告別式それぞれの意味
通夜(半通夜)とは
通夜は、葬儀の前日の夜に親戚や、故人と親しかった知人が集まり、夜どおし故人とともに過ごして別れを惜しむ儀式だ。最近では、告別式に出席できない人のためのお別れの場として一般の弔問客を迎える半通夜も多くなってきた。
葬儀とは
葬儀は、死者をこの世からあの世へと渡らせる儀式だ。遺族や親族が故人の冥福(死後の幸福)を祈るために行う。
告別式とは
告別式は、葬儀に参列する全ての人が焼香をして、故人と最後の別れをする儀式だ。葬儀と告別式は別々の儀式だが、最近では同時に行うことが多く、あわせて「葬式」と呼ばれる。
弔事に関わる業務
訃報(人の死亡の知らせ)があったときには、次のポイントを聞くのを忘れないこと。
- 通夜・葬儀の形式(宗教)、場所、日時
- 喪主の氏名、続柄(故人の息子など)、住所、電話番号
- 香典・供物などの手配
- 逝去(せいきょ)の日時、死因
担当者は、社内規定に則って、次の対応を決める。
- 弔電を打つのか
- 通夜・告別式のどちらに、誰が出席するのか
- 供物はどうするのか
- 香典はいくらにするのか
- 手伝いにいく必要があるのか
さまざまな葬式の形式
最近では、葬式にもさまざまな形式がある。葬式に参列する人には、その場に応じた配慮や立ち振る舞いが求められる。
本葬・社葬
本葬(ほんそう)とは、あらかじめ身内で密葬を行なったあと、大規模な葬儀をあらためて行うことをいう。たくさんの人々の弔問を受けるため、大きな会場で行われる。
なかでも社葬は、会社に貢献した人や功績をあげた人、業務上で亡くなった人などに対して、故人が働いていた会社や団体が中心となっておこなう葬儀だ。準備に時間がかかるため、密葬とはあいだが空くことが多い。
規模の大きい葬儀に参列するときは、主催者にお伺いをたててから、式典参加の手順に従うのがマナーだ。
偲ぶ会(お別れ会)
最近では、これまでの本葬に代わり、ホテルなどで「故人を偲ぶ会(しのぶかい)」が行われることも多くなった。偲ぶ会には、かたくるしい決まりはなく、服装も平服で時間内なら自由に参列できる。
会場によっては、ほかの慶事と重なることがあるため、共有スペースでの会話には気をつけたい。
家族葬
家族葬は、故人の意向などから、身内や近親者、親しい知人・友人だけで執りおこなう葬儀だ。高齢者の葬儀では主流になっている。自宅や斎場でおこなわれるが、参列人数に制限があることが多い。直接知らせを受けたとき以外は、参列を控えるのがマナーだ。弔電や供花(きょうか・くげ)の手配、香典の郵送などで弔意を示す。
自由葬
自由葬とは、いままでの葬儀の形式にこだわらず、自由な発想で行う葬儀のことだ。音楽葬、自然葬、生前葬など、さまざまな形式がある。形式は自由だが、参列するときには故人や遺族に対する礼儀を守るのがマナーだ。
弔問のときに気をつけること
弔問とは、亡くなった人の遺族のところを訪ね、お悔やみの言葉を述べることをいう。通夜の前に急いでかけつけるときには、平服でもかまわないが、カジュアルな服装は避けたい。
男性はダークスーツに黒のネクタイ、女性は暗い色のワンピースやスーツが好ましい。取り急ぎといっても、目立つアクセサリーなどははずしておくのがマナーだ。
会社の上司の遺族が亡くなったときは、弔問のあと裏方として手伝うこともある。女性の場合は、通夜振る舞いを手伝うことがあるので、白の飾りのないエプロンを持っていくと気が利いている。男性も靴を脱ぐことがあるため、靴や靴下は黒のほうが望ましい。
弔問に備えて準備しておきたいもの
- 不祝儀袋
- 数珠
- ふくさ(むらさきや暗い色)
- 黒のネクタイ
- 黒いドレスシューズ
- 黒い靴下・ストックング
- 黒いハンドバッグ
弔事の服装
正礼装(喪主・遺族)
弔辞では、男性・女性ともに和服がもっとも格上の服装とされる。
洋服では、男性の正礼装はモーニングだが、これは昼の正装なので通夜では着ない。最近では、通夜・葬儀ともに略礼装のブラックスーツが増えている。
女性の洋服の正礼装は、略礼装と同じだが、肌の露出を抑え、丈の長いものを着たり、手袋をつけたりする。
略礼装
男性はブラックスーツに白いシャツ、黒地のネクタイ、黒の靴下、黒の靴を着て、タイピンはつけない。シャツは襟に飾りのないものを選び、ポケットチーフはつけない。
女性は黒無地で長袖のワンピース、またはツーピースなどで光沢のない素材のものを着る。スカートスーツが基本だが、最近はパンツスーツも受け入れられている。ただし、くるぶしの見える丈のものはダメ。
靴、ハンドバッグはつや消しの黒を選び、手袋やストッキングも黒にする。結婚指輪以外のアクセサリーはつけないのが原則だが、つけるなら真珠(ネックレスは一連)あるいは黒い宝石にする。
コートは斎場に着いたらすぐに脱ぐのがマナーだ。寒い日などに出棺を待つあいだには着てもいいが、拝礼(礼をすること)や出棺を見送るときには脱ぐようにする。
通夜の服装
通夜は、本来は故人が亡くなった日の夜に近親者のみで執り行うもので、地味な平服でいいとされていた。ところが最近は、当日でないことも多く、通夜が行われるまでには時間のゆとりがあるため、喪服で参列するのが主流だ。ブラックスーツであれば、問題ない。
香典の準備
香典(こうでん)とは、香の代わりに死者の霊に供える金銭のことだ。香典は通夜か葬式に参列するときに持っていく。
仕事で参列するときの香典
社内の場合は、慶弔見舞金規定などに従う。社外の場合は、相手の会社との関係や、つきあいの濃さ・年月などによって異なる。いままでの例などを確かめ、妥当な金額を決める。
社名、役職名、取引関係、参列記録(葬儀場・参列者・金額)などの記録を残しておくと、今後の参考になる。
個人で参列するときの香典
故人との関係や立場などで変わるが、身内同様の親しくしていた人以外では5000円くらいが目安だ。
弔電のマナー
弔電とは、通夜や告別式に参加できないときに、故人の死を悲しむ気持ちを喪主や親族に伝えるために送る電報のことだ。遅くても、告別式には間に合うように送る。
亡くなった社員の家族宛てに送るときは、通常は会社の代表者の名前(社長名)で送る。社長が参列する場合には「社員一同」などを使うのが一般的だ。
弔電の送り先は、自宅の場合は喪主、斎場の場合は斎場気付で出す。気付とは、相手の住所ではなく、相手の立ち寄り先や関係がある場所に送るとき、宛先の下に書く言葉だ。
宛名は喪主宛てにするが、喪主の名前がわからないときは、「〇〇(故人のフルネーム)様ご遺族様」「〇〇様遺族ご一同様」などとする。
弔電の文面は、遺族(喪主)に宛てたものになっているため、故人を表す表現には注意する。また、忌み言葉は避ける。
- 祖父 → お祖父様・おじい様
- 祖母 → お祖母様・おばあ様
- 父 → ご尊父様・お父上様 尊父(そんぷ)は、他人の父を敬うことば
- 母 → ご母堂様・お母上様 母堂(ぼどう)は、他人の母を敬うことば
- 妻の父→ ご岳父様(がくふ) 岳父(がくふ)は、妻の父、しゅうとの意味
- 夫 → ご主人様
- 妻 → 奥様・ご令室様 令室(れいしつ)は、他人の妻を敬うことば
- 息子 → ご令息様・ご子息様 令息(れいそく)は、他人の息子を敬うことば 子息(しそく)は、むすこの意味
- 娘 → ご令嬢様・ご息女様 令嬢(れいじょう)息女(そくじょ)は、他人の娘を敬うことば
供花・供物のマナー
供花や花輪は、故人に供える花のこと。地域によっては、供花は遺族や親族が供え、花輪はまわりの関係者が出すなど分かれているところもある。最近では、供花を送るのが一般的だ。
供物の品々は、宗教によって違う。祭壇の装飾には、決まりごとや故人のイメージ、美観などが考慮されている。
- 仏教 果物・菓子・線香・ろうそく
- 神道 果物・和菓子・酒
- キリスト教 供物は送らない
通夜の前は、遺族が取り込んでいるため、供花や供物を送るときには葬儀会社に問い合わせるか、社葬のときは担当者に相談するといい。「供花・供物は辞退」という場合は、故人や遺族の意志を尊重するのがマナーだ。
仏教の通夜・葬式のマナー
仏教の弔問は、受付(香典・記帳)→入室→僧侶入場・読経→焼香→退席の流れで行われる。通夜では通夜振る舞い、葬式(告別式)では、弔辞拝受、弔電紹介、喪主のあいさつ、が加わる。
受付(香典・記帳)
受付では香典を差し出し、「ご霊前にお供えください」と言って記帳する。代理での参列や、香典を預かっているときには、その人の名前を書き、名前の下に「代理」または「代」と小さく書き添える。
受付では、長々とは話さない。言葉が見つからないときは、目を合わせて礼をする(目礼)だけでもいい。受付の担当者が遺族や近親者ではないときには、お悔やみの言葉は不要だ。代表的なお悔やみの言葉には次のものがある。
- このたびはご愁傷さまでございます
- 大変残念に思います
- どうぞお力を落としなさいませんように
- 心よりお悔やみ申し上げます(仏式・神式のみ)
- 心よりご冥福をお祈りいたします(仏式のみ)
お悔やみの言葉は、宗教によって使える言葉が異なるので、気をつけたい。「成仏」「供養」「冥福」「大往生」などは仏教の考え方で、新道やキリスト教には不適切な言葉だ。神式やキリスト教式の弔事では使わないように。キリスト教では「お悔やみ」「哀悼」も使わないので、注意したい。
通夜や葬式では、次の忌み言葉も使わないように心がける。
- 重ね言葉 重ね重ね・いよいよ・かえすがえす など
- 直接的な表現 死ぬ・死因 など
- 繰り返しを連想される言葉 再び・続く・再三・追って など
- 悪いことを連想させる言葉 四・九・迷う・浮かばれない など
入室
部屋に入るときは先客に目礼し、遺族に一礼してから席につく。読経がはじまっていないなら、遺族にお悔やみのあいさつを述べてもいい。
僧侶入場・読経
僧侶は、合掌(両手のひらを顔や胸の前で合わせて拝む)または拝礼(頭を下げて礼をする)で迎える。読経中は静かに拝聴(つつしんで聴く)する。
焼香
僧侶の読経が終わったら、喪主から順に焼香をはじめる。焼香には、立礼焼香、座礼焼香、回し焼香の3種類がある。ここでは、立礼焼香の作法を紹介する。
- 焼香の順番がきたら、祭壇に進み、遺族と僧侶に一礼する
- 遺影と位牌に一礼(または合掌)する
- 焼香台に進み、抹香(まっこう)をつまむ
- おしいただいたあと、香炉の中へ落とす
- 焼香を1~3回繰り返す
- 遺影に向かって合掌し、一礼する(故人の冥福を祈る)
- 遺影のほうを向いたまま、2、3歩下がり、遺族と僧侶に一礼したあと席に戻る
座礼焼香や回し焼香のやり方を知りたい人や、動画を見たい人は次のサイトがわかりやすい。
焼香には、つまむ、おしいただく、落とすの3つの基本動作がある。焼香のやり方は、右手の親指と人差し指、中指の3本の指で抹香(まっこう)をつまみ、目の高さに持ち上げて(おしいただき)、指をこすりながら香炉の中に落とす。
焼香の回数は宗派によって異なる。相手の宗派に従うのが丁寧だが、自分が信仰する宗派のやり方でもかまわない。相手の宗派も自分の宗派もわからないときは、喪主のやり方をまねるか、1回だけ行うといい。主な宗派の焼香の作法は次のとおりだ。
- 真言宗 つまみ・おしいただき・落とす 3回
- 日蓮宗 つまみ・おしいただき・落とす 1回(または3回)
- 日蓮正宗 つまみ・おしいただき・落とす 3回(または1回)
- 臨済宗 つまみ・おしいただき・落とす 1回 ※おしいただかなくてもいい
- 浄土真宗 つまみ・落とす 1回 ※おしいただかない
- 曹洞宗 つまみ・おしいただき・落とす 2回 ※2回目はおしいただかない
- 浄土宗 つまみ・おしいただき・落とす ※回数の定めは特にない
- 天台宗 回数や作法の決まりは特にない おしいただくかどうかも自由でいい
退席
喪主や遺族は取り込み中なので、席に見当たらないときは、あいさつをせずに帰ってもよい。
通夜振る舞い
通夜では、焼香が終わったあと、お清めの意味でお酒と食事が用意されていることがある。遺族に勧められたときは、あまり強くは断らず、素直に席に着いたほうがいい。顔見知りに会っても大きな声で話さず、長居はしないこと。
神道の通夜(通夜祭)・葬式(葬場祭)のマナー
神道の葬式は神葬祭(しんそうさい)と呼ばれる。仏教の通夜にあたるのが通夜祭、葬儀・告別式にあたるのが葬場祭だ。
神道でも、弔問の流れはそれほど大きく変わらない(名称は違う)。仏教との違いは、「手水(ちょうず)」と「玉串奉奠(たまぐしほうでん)」だ。手水は、ひしゃくで手と口をすすいで身を清めること、玉串奉奠は、榊(さかき)の枝を神前に捧げることをいう。
神道では数珠は使わない。「ご冥福をお祈りいたします」のご冥福は仏教用語なので、神道では「御霊(みたま)のご平安をお祈りいたします」という。
玉串奉奠の作法
- 神職に一礼して、玉串を受け取る(玉串は左手で葉の側を下から支えて、右手は根の側を上から持つ)
- 親族に一礼する
- 台の前に進み、玉串を時計回りに90度まわし、葉先を神前に向けたあと、祈る
- 左右の手を持ちかえる
- 時計回りにさらに180度まわして、根元を神前に向けたあと、用意された台に捧げる
- 二礼、二拍手、一礼する ※かしわ手は音を立てず、手を合わせる寸前で止める(しのび手)
- 神前を向いたまま2、3歩下がり、神職や遺族に一礼したあと、席に戻る
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キリスト教の通夜(前夜祭・通夜式)・葬式のマナー
キリスト教では、もともとは通夜を行わないが、日本では、日本の風習にならって「前夜祭」「通夜祭」などの名称で執り行われる。
葬式は故人が所属する協会で行われる。カトリックとプロテスタントでは、葬式の流れに少し違いがある。仏教の葬式との違いは、「聖歌・賛美歌合唱」と「献花」があることだ。
聖歌・賛美歌合唱では譜面が配られるが、歌えないならだまって聴いているだけでもいい。お祈りのときは、カトリックでは手のひらを合わせた合掌、プロテスタントでは指を組むことが多い。
献花の作法
- 花台に進み、一礼して花を取る
- 花は右に向けて持つ(右手で花の側を下から支えて、左手で根の側を上から添える)
- 棺の前に進んだあと一礼し、時計回りに花を90度まわし、茎を前にして献花台の上に供える(花が自分側にくる)
- 黙とうをしたあと遺影に一礼する
- 遺影のほうを向いたまま2、3歩下がり、遺族や神父、牧師に一礼して席に戻る
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弔辞のマナーQ&A
葬儀の受付を頼まれたときに気をつけること
受付では現金を扱うため、その場を離れないこと。特定の人と話しこまないようにしたい。香典は「お預かりいたします」といって両手で受け取る。
自分の焼香は葬儀に参列する人が少ないときを見計らっておこなう。トイレや控え室などを聞かれることもあるので、会場の把握もしておく。
喪章や黒いリボンはつける?
喪章は、人の死をいたむ気持ちを表すために腕にまいたり、リボンにして胸につけたりする黒い布のこと。遺族や世話役のみがつけるので、一般の参列者はつけない。
お清めの塩はいつ使うの?
日本には、通夜や葬儀のあと帰宅して玄関に入る前に、塩を体に振りかけて身を清める風習がある。この風習は、人の死を穢れ(けがれ)と受け止める神道の考え方が影響している。
仏教やキリスト教では、塩で身を清める必要は特にないとされるため、お清めをするかしないかは個人の自由だ。お清めの塩を使うときは、玄関の外で胸元、背中、足元の順で、左右に少しずつまく。