サラリーマンは辛いよ アメリカ人もドン引きする日本人の働き方

サラリーマンは辛いよ アメリカ人もドン引きする日本人の働き方

日本人を代表する働き方“サラリーマン”。サラリーマンが辛いのは、日本人なら誰もが知るところだ。

その働き方は、ときには笑いのネタにされる。だがそれは、愛されている証しだろう。彼らがいるから、いまの豊かな日本がある。サラリーマンのお父さんたちは、日本では尊敬の対象だ。

そのサラリーマンが2015年、アメリカで話題になった。賞賛されたというよりは、失笑された感じだが。

アメリカ人は、日本人の働き方を、サラリーマンをどう見たのか?

サラリーマンの長時間労働にはアメリカ人もドン引き

2015年、ある動画がきっかけで、日本人のサラリーマンという働き方がアメリカで話題になった。日本で働くイギリス人男性が、サラリーマンの1週間を紹介した『A week the life of a Tokyo salary man』という動画だ。

Where's Stuのユーチューブチャンネル

A week in the life of a Tokyo salary man【字幕付き】 – YouTube

彼の名前は“Where’s Stu”(動画を投稿した当時は“Stu in Tokyo”)。イギリス出身の人気YouTuberだ。九州で外国語教師をやっていた彼は、2015年に金融機関に転職。東京に引っ越した。

動画は月曜日の23時20分、残業を終えた彼が息を切らして走っている場面から始まる。終電に乗るため、駅に向かっているのだ。

動画の内容をまとめると、こんな感じだ。

・ 帰宅するのは毎日、深夜。ごはんを食べ、筋トレをする。シャワーを浴び、あとは眠るだけ。
・ 朝は、眠い目をこすりながら起床。ごはんを食べ、弁当を作り、電車に飛び乗る。
・ 会社を出るのは午後23時過ぎ。眠るのは午前2時前。
・ 水曜日にはすでに疲れた表情。金曜日はクタクタ。
・ 土曜日は休日出勤。

都内で働く日本人には当たり前の光景だ。社畜であるサラリーマンは、電車の中で次の日を迎えるのは基本。日をまたがないうちに家に帰れるのは奇跡といっていい。たったそれだけで、神様に感謝したくなるくらい幸せを感じる。家でゆっくりできると。

だけど、アメリカ人には違ったようだ。動画にはたくさんのコメントが寄せられた。一部を紹介しよう。

  • アメリカ人も週50時間は働くけれど、日本のサラリーマンに比べるとマシに思える
  • 週40 時間だって大変なのに、80時間も働くなんて何のために生きてるんだか
  • 日本が少子化になった理由がわかるね
  • 残業代はもらえるのかな? もらえても自分ならやらないけれど

サラリーマンの働き方には大手メディアも注目

アメリカの大手メディアCNNも彼の動画に注目。記事を書いた。『Pity japan’s salaryman: Inside a brutal 80-hour workweek(哀れ日本のサラリーマン 週80時間労働の過酷な内情)』という記事だ。内容を紹介しよう。

哀れ日本のサラリーマン 週80時間労働の過酷な内情 - CNN Money

「Stuの生活は、典型的な日本のサラリーマンだ。日本の経済を支えるため、サラリーマンは会社を優先する。死ぬほど働いたあとには、顧客や同僚とだらだら酒を飲む。彼らは毎日、睡眠時間は短く、通勤電車ではもみくちゃになりながら出社する。働く時間は平均13時間。会社を出るのは深夜の23時だ。最終電車に間に合うように、駅までは猛ダッシュ。次の日も、次の日も、その次の日も、それを繰り返すのだ」。

記事では、日本人のサラリーマンという働き方を“brutal(残忍な)”と表現している。紹介されたStuの1週間がこれだ。

  • 月曜日 – 労働 13.5時間・睡眠 6.0時間
  • 火曜日 – 労働 13.5時間・睡眠 7.0時間
  • 水曜日 – 労働 13.5時間・睡眠 7.0時間
  • 木曜日 – 労働 13.5時間・睡眠 7.5時間
  • 金曜日 – 労働 14.0時間・睡眠 7.5時間
  • 土曜日 – 労働 10.0時間

この通り、Stuはよく働く。残業は毎日5時間を超える。1週間では78時間も働く。平日の睡眠時間はたったの35時間だ。動画を撮ったのは1月から3月までの繁忙期のようだが、それにしても働き過ぎだ。

動画を見るかぎり、彼はサラリーマンを楽しんでいるようだ。別の動画では「この仕事を始めるとき、繁忙期があるのは知っていたよ」と述べている。また別の動画では「家族を養うために、東京では一年中この生活リズムを過ごす人もいるはず」と感心している。

では、日本人の働き方“サラリーマン”を詳しく見ていこう。

日本人の睡眠時間は世界でもっとも短い

日本人は眠らない。睡眠時間は世界最短だ。

ミシガン大学がおこなった調査研究を紹介しよう。同大学は、独自に開発したスマートフォンアプリ『ENTRAIN』を使って、100カ国の数千以上の人々の就寝時間と起床時間のデータを集め、国別の平均睡眠時間を比べた。

その結果、日本人の平均睡眠時間は7時間24分だった。この数字は、シンガポールと並び世界最短だ。世界一よく眠るのは、オランダの8時間21分だった。

欧米はのきなみ8時間前後。7時間半をきる国は、日本とシンガポールだけだった。

調査の内容をまとめると、こんな感じだ。

  • もっとも睡眠時間が短いのは、働き盛りの中年男性
  • 女性は、男性より睡眠時間が長い傾向がある
  • 室内で働く人は、屋外で働く人よりも睡眠時間が短い

これらの調査結果を受け、研究チームは次のように結論づけた。

「国ごとの社会的なプレッシャーによる影響が強く、体内時計の働きが弱まることで就寝が遅くなり、睡眠時間の減少につながる」。

研究では、ともに最短だった日本とシンガポールにはひとつの共通点があることもわかっている。両国ともに『遅寝、早起き』なのだ。

シンガポール人の寝不足の原因は、学生時代の“なごり”だという。シンガポールの医療機関は、夜遅くまで宿題や試験勉強をする習慣が、大人になってからも続いている可能性を指摘している。

では、日本人はどうか。日本の場合はその働き方に原因がある。サラリーマンという働き方だ。

サラリーマンは労働時間が長いうえに、通勤時間も長い。オフィスで過ごす時間が長く、イスに座っている時間も世界一だ。

この通り、サラリーマンの1日は、体内時計の働きを弱め、寝不足になる要因ばかり。サラリマンは辛いのだ。

日本人の食事時間が長いのはサラリーマンが原因か

アメリカ人を驚かせたのは、労働時間の長さや睡眠時間の短さだけではない。日本人の食事時間の長さだ。

OECD(経済協力開発機構)が2009年に発表した調査では、1日の食事時間の長さは、フランス(135分)、ニュージーランド(130分)に次ぐ第3位の117分だった。

フランス人はもっとも飲食に時間を費やす - Society at a Glance 2009

嘘でしょ? そう思った人は多いはずだ。僕はそう思った。日本人が食事に時間をかけるイメージは、まったくない。とくにサラリーマンは。

だけど、本当なのだ。その答えは、サラリーマンの仕事後の“付き合い”だ。先ほどのCCNの記事は、こう表現している。

「They work brutal hours, often followed by marathon drinking sessions with colleagues and clients.(サラリーマンは死ぬほど働いたあと、同僚やクライアントとだらだら飲み続ける)」

“marathon drinking”(マラソンドリンキング)は、だらだらと飲み続ける様子をからかう言葉だ。この言葉は、サラリーマンの付き合いの愚かさを的確に表現している。

欧米にはこういった習慣はない。飲み会では帰りたい人から帰るのが向こうのやり方だ。付き合いという風習は、欧米人の目には不思議な光景に映る。

「そんなに働いて、疲れて、寝不足なのに、どうしておうちに帰らないの?」。その通りだ。サラリーマンは辛いのだ。

居眠りは英語でも“inemuri”

海外の人には、居眠りも驚きの光景のようだ。

BBCの『The Japanese art of (not) sleeping: The Japanese don’t sleep. They don’t nap. They do ‘inemuri’. Dr Brigitte Steger explains.(日本人は眠らないし、昼寝もしない。居眠りをするのだ。ブリジット・ステガー博士は説明する)』というタイトルの記事で、日本の居眠りを伝えている。

日本人は眠らないし、昼寝もしない。居眠りをするのだ。

内容をダイジェストで紹介しよう。

「1980年代に初めて来日したステガー博士は、バブル期の日本をこう振り返る。バブル期の日本には『24時間働けますか?』という栄養ドリンクのキャッチコピーがあった。その言葉通り、サラリーマンは夜の遅くまで働き、そのあと夜の街に出かけた。眠る時間はほどんとなかった」。

「私は、彼らが通勤中に居眠るするのを数え切れないほど見た。なかには立ったまま眠る人もいた。公共の場所で不用意に眠る人を見ても、日本人は誰ひとり驚かない。日本では当たり前の風景なのだ。居眠りは受け入れられているのだ」。

「サラリーマンは、“遅寝早起き”。まるで働きバチのようだ。日本人がこんなに働けるのは、居眠りが許されるからだ。彼らはバスや電車、会議、授業や講義でも居眠りをする。居眠りをするのは男性だけではない。女性も子供も、居眠りに抵抗がないのだ」。

「日本人は人前で眠るのが平気だ。その理由は彼らの育児方法にある。私たち(欧米人)は、赤ちゃんのころから親とは別々の部屋で眠る。だが、日本人は小学生になるまでは親と一緒に眠るのだ」。

「居眠りの習慣は、2011年の東日本大震災に活かされた。被災者は避難所での生活を余儀なくされた。だが彼らは、困難な状況にも関わらず、互いに協力して、安心して眠ることができた。公共の場所でも眠れる国民性が幸いしたのだ」。

「職場で眠るのは、無気力や職務怠慢だと受け取るのが一般的だ。だが一方では、居眠りは仕事をがんばり疲れ果てた結果だとも考えられる。日本では、疲れを押して会議に出席する努力は、仕事の業績よりも評価されるのだ」。

「ある日本人が私に言った。『日本人の精神はオリンピックに通じる。参加することに意義があるんだ』」。

人前で昼寝? 日本では勤勉の証だよ

また、ニューヨークタイムズは『Napping in Public? In Japan, That’s a Sign of Diligence(人前で昼寝? 日本では勤勉の証だよ)』という記事で、居眠りとサラリーマンの関係を紹介している。

「多くの国では、勤務中に眠るのは“ひんしゅく”を買う行為だ。首になるかもしれない。だけど日本では違う。日本では、オフィスで昼寝をするサラリーマンをよく見る。勤務中の昼寝は受け入れられているだ。それどころか、勤勉さの証だと見られる。日本では“inemuri”と呼ぶ」。

「居眠りをするのは、おもにホワイトカラーの役職者だ。若手社員は、元気に見られたいがために1日中起きている。組み立てラインの作業員には、居眠りは許されない」。

「日本人は男女ともに居眠りをする。彼らは、デパート、カフェ、レストラン、そして“道ばた”でさえも眠るかもしれない。良い場所さえあれば」。

「居眠りは、とくに通勤電車でおこなう。車内が、ベッドルームに早変わりする。犯罪率が低いからできる行為だ」。

「居眠りが自身の評価を高めるときもある。ある男性が女性と食事中に居眠りをした。ほかの客は、彼の“紳士的なふるまい”を褒めた。彼が居眠りをするほど眠いのに退席をせず、その場に居続けることを選んだからだ」。

「居眠りには不文律(暗黙のルール)がある。それは他人の空間を侵さず、小さくなって眠ることだ。会議室のテーブルの下に足を伸ばしたり、電車でいくつかの席を使ったり、公園のベンチに出かけたりするのは、非難される」。

「目を閉じていても眠っているとは限らない。自分の時間を楽しんでいる場合もある。最近ではスマートフォンがあるから、居眠りをする必要がなくなった」。

バカにされている気がするのは、僕だけだろうか?

日本人の生産性が低いのは、働きすぎるから?

日本人の生産性は世界の最低レベルだ。長時間労働がはびこり、社畜という言葉が定着しているのにも関わらずだ。こんなに働いているのに。意味がわからない。

2017年の労働生産性グラフ

1時間あたりの労働生産性は、主要先進7カ国(G7)では最下位。OECD加盟国では35カ国中20位だ。トップのアイルランドは日本の2.1倍。6位のアメリカは日本の1.5倍だ。

1人あたりの労働生産性も、主要先進7カ国では最下位。OECD加盟国では35カ国中21位だ。1990年にはアメリカの3/4に近い水準だったのが、2010年には2/3程度まで下がった。アメリカとの差は緩やかに広がっている。(最近は広がりは止まっているようだ)。

なぜ、日本人は生産性が低いのか?アメリカで話題になった論文を紹介しよう。

アメリカは、長時間労働の関心が高く、労働時間と生産性に関する研究がたくさんある。そのひとつが、スタンフォード大学のジョン・ペンガル教授が2014年に発表した『The Productivity of Working Hours』という論文だ。

労働時間と生産性の関係

論文にはこう書いてある。

「週50時間以上働くと労働生産性が下がり、63時間以上働くとむしろ仕事の成果が減る」。

また、アメリカは睡眠への関心も高い。最近では、有名企業の経営者たちが睡眠の重要性を語っている。アメリカでは睡眠がブームなのだ。

睡眠不足は、認知能力や記憶力、対人関係の対応能力を下げる。経営者には重要な意思決定が求められる。睡眠不足は損失以外の何物でもないのだ。

それはサラリーマンも同じだ。生産性が下がるような働き方をして、居眠りをしているから、世界の笑い者になる。サラリーマンのみなさん。そろそろ働き方、見直しませんか?

参考資料:

サラリーマンは辛いよ アメリカ人もドン引きする日本人の働き方