運動や食事制限ばかりがダイエットだと思っていないだろうか? それは違う。睡眠こそがダイエットの王道であり、成功への近道だ。
「眠るだけでやせるなんてウソに違いない」。あなたは鼻で笑ったかもしれない。だが、まぎれもない事実だ。
睡眠とダイエットの深い関係を解き明かしていこう。
mokuji
睡眠とダイエットの深い関係
ぐっすり眠れていない人は太りやすい。たとえばこんな人たちだ。
- 朝起きたとき、「よく寝た」という気がしない
- 朝起きたとき、「疲れが残っている」と感じる
- 朝起きたあと、眠気がなかなかとれない
- 毎日のようにいびきをかいている
- 寝相が悪いと言われる
- なかなか寝付けない
- 日中に眠くなる回数が多い
- 夜中によく目が覚める
- 夜中によくトイレに行く
- 目覚まし時計がないと絶対に起きられない
よい眠りはやせる体を作り、よく眠れていないとやせにくくなるという。このなぞを解くカギは、睡眠中に分泌される成長ホルモンにある。
成長ホルモンにはふたつの役割がある。ひとつめは「疲労の回復」。仕事で疲れた脳や体をリセットする。お肌も細胞ごと取り替えるため、若返る。アンチエイジングの効果だ。成長ホルモンは若返りホルモンとも呼ばれている。
ふたつめは「脂肪の分解」。体内にたまった脂肪をエネルギーに変える、代謝の働きだ。この代謝が、睡眠とダイエットの切っても切れない関係を作っている。
成長ホルモンがどのくらい脂肪を分解するかみていこう。ひと晩で消費される脂肪は、約300キロカロリーといわれる。300キロカロリーは、運動ならジョギング5km、食事制限ならごはん1杯半、食パン2枚と同じエネルギーだ。脂肪を1kg減らすのに必要なエネルギーは約7200キロカロリーだから、眠っているだけで1ヶ月に1kg以上やせる計算になる。
ただし、300キロカロリーという数字は、質の高い睡眠をとり、成長ホルモンがしっかりと分泌されたときの話だ。
眠りが浅かったり、睡眠時間が短かったりすると、成長ホルモンが分泌されにくくなる。約72%も分泌量が減るとわかっている。ひと晩で消費される脂肪が約90キロカロリーまで下がる。よく眠った人と比べると、ひと晩で210キロカロリーの脂肪が分解されずに体内に残る。本来なら消えてしまうはずだった脂肪が、だ。
この差はおそろしい。睡眠が正しくとれていないだけで、1ヶ月に6300キロカロリーもの脂肪がたまる。1ヶ月と少しのあいだに1kg太る。半年後には5kg、1年後には10kg太る。なんてひどい話だ。
けれど、いままで睡眠をおろそかにしていた人にとっては逆にチャンスでもある。眠り方を見直すだけで1ヶ月に1kgずつやせていくのだ。運動も食事制限もなしに、だ。このチャンスを逃す手はない。
ダイエットに効く、とっておきの睡眠法がある。「3・3・7睡眠法」だ。
3・3・7睡眠法がダイエットに効く
3・3・7睡眠法は、医師の左藤佳子先生がすすめる、ダイエットに効く眠り方だ。左藤先生は肥満外来の医師として、30年間で3万人に痩せるための指導をおこなってきた大ベテラン。肥満治療では、はじめに睡眠指導をおこなうという。肥満外来で睡眠指導だって? 期待がふくらむ。
3・3・7睡眠法の「3・3・7」は、3つのルールを指す。
寝はじめの「3時間」は中断せず、まとめて眠る
夜中の「3時」には寝ている
1日のトータルの睡眠時間は「7時間」を目指す
では、3・3・7睡眠法のルールを詳しくみていこう。
寝はじめの「3時間」は中断せず、まとめて眠る
人は、寝はじめの3時間がもっとも深い眠りになる。睡眠中は脳が情報を整理する「レム睡眠」と、脳が完全に休む「ノンレム睡眠」を交互に繰り返す。レム睡眠とノンレム睡眠は、1セットが90分。最初の2セットがもっとも眠りが深くなる。時間の経過とともに、だんだんと眠りが浅くなり、目が覚める。
成長ホルモンは深い眠りのときにまとめて分泌される。下の表は20〜26歳の10人の血中の成長ホルモン値を10分ごとに24時間調べたデータだ。眠りはじめの3時間に成長ホルモンが多く分泌されているのがわかる。眠りが浅くなる4時間め以降は、成長ホルモンがほとんど分泌されない。

夜中の「3時」には寝ている
夜10時から夜中2時までのあいだは、成長ホルモンが集中して分泌されるため、「睡眠のゴールデンタイム」や「お肌のゴールデンタイム」と呼ばれている。
3・3・7睡眠法では、生活リズムが朝型の人も夜型の人も無理なく実践できるように、夜中の3時をぎりぎりセーフのラインにしているようだ。
ただし、睡眠のゴールデンタイムは「根拠がない嘘だ」という意見も多い。彼らが言うには、深いノンレム睡眠にさえ入れば、何時に眠っても成長ホルモンが分泌されるという。
「22時~午前2時は睡眠のゴールデンタイム」説に根拠なし! 睡眠の正しい知識とは|ダ・ヴィンチニュース
どちらの意見を支持するにしても、第1のルール「寝はじめの3時間はまとめて眠る」を守るには3時までに寝たほうがいいだろう。
第2のルールのもうひとつ根拠も紹介しておこう。夜中の3時は人の体に備わっている3つの生体リズム(24時間周期・12時間周期・90分周期)がちょうど重なる時間のため、体にとって無理がないサイクルだという。
1日のトータルの睡眠時間は「7時間」を目指す
睡眠時間には個人差がある。「8時間眠らないと頭がほんやりする」と言う人もいれば、「6時間も眠れば十分」という人もいる。長く眠るほど痩せやすくなるわけではないので、深く考えず、自分がちょうどいいと感じるだけ眠ればいい。3・3・7睡眠法では7時間を睡眠時間の目安にしている。
だが、睡眠時間が短すぎるのはよくない。アメリカのコロンビア大学の研究では、睡眠時間が7時間の人と5時間の人を比べると、5時間の人は肥満率が52%も高かった。さらに睡眠時間が4時間になると肥満率が73%まで上がる。睡眠時間が短い人ほど太っているのだ。
忙しいビジネスパーソンには、7時間まとめて眠るのはむずかしいだろう。残業がある。お酒の付き合いがある。やっと帰宅すると、0時を回っているなんて日常茶飯事だ。「ただいま」を言った時点で、「いってきます」まですでに7時間を切っている。
だから1日のトータルで7時間を目指そう。家で5時間しか眠れないなら、日中に1〜2時間なんとか眠る。通勤時間や昼休みなど、スキマ時間を見つけて仮眠する。
休日の寝だめはほどほどに。平日の睡眠不足を補おうと休みの日に寝すぎるのは、睡眠リズムが狂う原因になる。体内時計が乱れるため、夜に眠れなくなる。遅くとも昼前には起きよう。
人の体は、朝日を浴び、体内時計がリセットされてから14〜16時間後に眠くなるようにできている。二度寝をするにしても、朝は一度起き、朝日を浴びたほうがいい。体内時計がリセットされる。
ダイエットに効く睡眠習慣
ここからは睡眠の質をより高める方法を紹介していく。
寝室の睡眠環境を整える
寝室をきれいにすると、ぐっすり眠れるようになる。空気が汚れた部屋で寝ると、呼吸をするたびにほこりやカビ、雑菌を吸い込んでしまう。体内に入った異物を外に出そうとするため、咳やくしゃみがでる。眠りが浅くなり、成長ホルモンの分泌が減る。
部屋はこまめに掃除し、枕カバーやシーツも週に1回は洗濯して清潔に保つ。空気清浄機を置くのもいい考えだ。
寝具にもこだわりたい。布団や枕が体に合っていないとぐっすり眠れない。腰痛や肩こりの原因にもなる。睡眠の質に大きな差が出るので、自分にぴったり合うものを選ぼう。寝室は1日の1/3を過ごす場所。お金をかけるべきところだ。
睡眠時の明るさにも気を配る。部屋が明るいと、眠気を誘うホルモン「メラトニン」が分泌されにくくなるため、スムーズに入眠できない。睡眠中の明るさは「レースカーテンごしの月明かり」くらいがちょうどいい。室内の常夜灯も、電灯の豆電球の光が直接目に入るのはよくない。間接照明で工夫しよう。
寝る前の飲食はなるべく避ける
食事は就寝の3時間前に済ませるのが好ましい。食べたり飲んだりすると消化のために胃腸が働き始める。眠りが浅くなり、成長ホルモンの分泌が減る。
これは忙しいビジネスマンには正直きびしい。残業や仕事の食事会、飲み会など、21時を過ぎてから食事をする機会が多い。なにも食べないわけにはいかないので、せめて胃腸への負担が少ない軽い食事を心がける。野菜やキノコ類、海藻から食べはじめるほうが、血糖値が上がりにくく、過食が防げる。
就寝の前に食べるなら、消化しやすいスープを腹六〜七分目でとる。ドロッとしたポタージュよりサラッとしたコンソメのほうが胃にはやさしい。熟睡を邪魔することなく、朝までぐっすり眠れる。
寝る前のお酒は睡眠の質を下げる。眠れないからと、睡眠薬がわりにお酒を飲むのはやめたほうがいい。たしかにアルコールには睡眠導入作用がある。しかし、体内に入ったアルコールは、代謝の過程でアルデヒドに変わる。アルデヒドには覚醒作用があるため、目が覚めたり、眠りが浅くなったりする。お酒を飲んだあとは気持ちよく眠りに落ちるかもしれないが、2〜3時間で目が覚めてしまう。
朝起きたら水を飲む
ダイエットにとって水を飲むのは、睡眠と同じくらい大切だ。水を飲むと代謝が上がるとともに、体にたまった老廃物を外に出すデトックスが期待できる。1日に飲む水の量は1リットルが目安。水は飲んでも太らない。ダイエット中こそ積極的に飲もう。
とくに寝起きは水分を補給したい。起きたばかりは1日でもっとも体が乾いている。喉の渇きを感じていなくても、体が水分を欲しがっている。朝起きたらコップ1杯の水を飲むのを習慣にしよう。
寝る前に激しい運動をしない
眠る前に激しい運動をすると眠れなくなる。これには自律神経が関わっている。体にはふたつの自律神経が備わっており、昼の活動では「交感神経」、夜の休息では「副交感神経」が優位になる。副交感神経が優位になっている夜に激しい運動をすると、交感神経が刺激されるため、目が覚めてしまう。
だけど、すべての運動がダメというわけではない。ヨガやストレッチはリラックス効果が見込めるため、積極的に取り入れたい。ゆっくりした動きやリラックスを促す運動は、副交感神経を優位にする。適度に体を動かすと、心地よさを感じ、そのままぐっすり眠れる。
ヨガやストレッチがめんどうな人は、深呼吸はどうだろう。眠る前に数分ほど呼吸を整えるだけで熟睡できるようになる。
日中はストレスや緊張からどうしても呼吸が浅くなりがち。呼吸が浅くなると精神が不安定になり、いらいらしたり、落ち込んだりしやすくなる。また、体が冷えやすくなる。
深呼吸にはメリットが多い。深呼吸をすると基礎代謝が上がり、痩せやすくなる。新鮮な空気が細胞のすみずみまで行き渡るため、新陳代謝が期待できる。自律神経のバランスも整う。
眠る直前のスマホいじりやパソコン作業を控える
寝る前にスマホやパソコンを見ると眠れなくなる。これはディスプレイが発するブルーライトのせい。ブルーライトは交感神経と副交感神経のバランスを乱し、睡眠を妨げる。太陽の光が目を覚ましてくれるのと同じ働きだ。また、新しい情報を見つけると脳が興奮状態になり、ますます眠れなくなる。
対策はひとつだ。布団にはスマホを持ち込まない。どうしても手がさみしいなら、テレビのリモコンでも握っておこう。これで熟睡できる。調べ物やSNSは、早起きしてやればいい。作業効率もいいし、体にもやさしい。仕事で仕方なくパソコンを使うなら、ブルーライトをカットしてくれるメガネやフィルタを使うのがおすすめだ。
寝る1時間前にぬるめのお風呂に入る
寝る1時間前にぬるめのお風呂に入ると、寝つきがよくなる。人は深部体温が下がると眠くなる。深部体温とは内臓など体の内部の体温をいう。湯船につかると血流がよくなり、体がぽかぽかと温まる。お風呂から上がったあと、手足など体の表面から熱が逃げていき、深部体温が下がる。
湯船の温度は少しぬるいと感じる38〜40℃がベスト。10分以上かけてゆっくりと温まる。湯が熱すぎると目が覚めてしまうので気をつけよう。
シャワーで済ませるなら、せめて足浴もいっしょに。40〜42℃の少し熱めのお湯を洗面器にため、両足を3分ほどつける。両手も同時につけるとより効果がある。
まとめ|睡眠とダイエットは一生続いていく
さいごに睡眠と食欲の関係にも少し触れておく。睡眠を大切にすると、食欲がコントロールできるようになり、食べすぎがなくなるという話だ。
スタンフォード大学の研究で、睡眠時間が8時間の人と5時間の人の血中に含まれる物質を調べたところ、次の事実がわかった。8時間の人に比べて、5時間の人はレプチンが15.5%も少なく、グレリンが14.9%も多く含まれていた。レプチンは食欲を抑えるホルモン、グレリンは食欲を増やすホルモンだ。
しっかり眠った人は、ダイエットの味方であるレプチンが15%増え、ダイエットの敵であるグレリンが15%減る。寝不足の人より、合計で30%も痩せやすくなるのだ。すごくないか?
3・3・7睡眠法は、これまでいくつかのダイエット法を試したけれど効果が感じられなかった人、途中で挫折した人、あきらめてしまった人にこそ、おすすめする。
人は寝ないと生きていけない。運動や食事制限と違い、「やる」「やらない」の問題ではない。睡眠とは一生付き合っていくのだから、続けるのは簡単だ。途中で挫折することも、あきらめることもない。
3・3・7睡眠法で生活習慣を見直せば、熟睡とダイエットの成功が得られるたけでなく、さまざまな病気の予防にもなる。
今夜からはじめてみてはいかがだろうか?
参考文献
- 書籍『肥満外来の女医が教える熟睡して痩せる「3・3・7」睡眠ダイエット』左藤桂子
- 書籍『痩せる寝方 「睡眠不足が太るは」は本当だった!』佐藤桂子
- 書籍『快眠で「やせる体質』坂根直樹・小路浩子
- 論文『Effect of sleep deprivation on overall 24 h growth-hormone secretion』Gabrielle Brandenberger, Claude Gronfier, Florian Chapotot, Chantal Simon, François Piquard
- 論文『Inadequate Sleep as a Risk Factor for Obesity: Analyses of the NHANES I』James E. Gangwisch, Dolores Malaspina, Bernadette Boden-Albala, Steven B. Heymsfield