SNSのトラブルはなぜ起こる? ネット炎上事件の特徴を調べた

SNSのトラブルはなぜ起こるのか? ネット炎上事件の特徴を調べた

SNSには人生を変える力がある。SNSで出会って結婚する人や望みの仕事に就く人、有名になる人が増えた。SNSで人生が良い方向に変わった人たちだ。

一方、悪い方向に転び、SNSで人生が壊れる人もいる。「バカッター」や「バイトテロ」と揶揄されるネット炎上事件を起こした人たちだ。学生なら内定取り消し、社員ならクビになる。運よく異動や停職で済んだとしても、定年まで肩身の狭い思いをするのは確実だ。

また、意図せずSNSのトラブルに巻き込まれる人もいる。LINEいじめや出会い系被害にあう中高生が増えている。社会人でも、メッセージの誤送信や社内機密の漏洩などのうっかりミスが起こる。取引先や上司の悪口を書いていた匿名アカウントがばれて大問題になった、という人もいる。

SNSのトラブルやネット炎上事件は、なぜ起こるのか? みていこう。

ネット炎上事件は年間1000件以上起こっている

SNSによるネット炎上を世に知らしめる事件が2013年7月に起こった。高知県のあるコンビニで、従業員がアイスクリームケースの中に入っている写真を投稿したのがきっかけだ。フェイスブックで公開されたこの写真は、2ちゃんねるやツイッターで広まり、炎上。運営する企業が謝罪に追い込まれるほど大問題になった。たったひとりの従業員が大企業を窮地に追い込んだのだ。まるでランボーだ。

その後も、ネット炎上事件は次々と起こっている。ネット炎上への対応や予防のためのコンサルティングを行う株式会社エルテスの調べによると、ネット炎上事件は2015年に年間1000件を超えたという。1日に平均2〜3件だから、食事をするたびにどこかで誰かが炎上している計算になる。

ネット炎上レポート(2015年総集編)~炎上件数は昨年を大きく上回る~|デジタルリスク研究所

ネット炎上は企業にとって大きなダメージとなる。企業や従業員たちがたくさんのお金と時間を使って築き上げてきたイメージが、またたく間に崩れ落ちるのだ。たったひとりの社員やアルバイトの軽はずみな行動で、だ。おそろしい。

ネット炎上対策をする企業も増えている。多くの企業が、ソーシャルメディアポリシーという、従業員が守るべきSNSのルールを用意するようになった。ソーシャルメディアポリシーには、法令を守る、機密事項をもらさない、秘密を守る、発言に自覚と責任を持つといった内容が書かれている。

炎上事件を起こした本人は、社会的に殺される。個人情報が永遠にネット上でさらされ続けるのだ。自分の名前をネット検索すると、顔写真や出身校、勤務先、家族、住所が載っているまとめサイトがいくつもヒットする。

再就職もむずかしい。企業の人事担当者が採用候補をインターネットやSNSで検索するのが、当たり前になっている。危険人物を抱えたいと考える企業なんてない。よほど優秀でもないかぎり、希望の職種にはつけないだろう。まさに人生が殺されるのだ。

SNSでトラブルに巻き込まれる若者たち

SNSのトラブルは若年層が多い。総務省が2015年に行った調査によると、SNSでトラブルにあったことがある人は15.4%だった。トラブルにあう人は年代が下がるほど増える傾向がある。20代以下では、26%がなんらかのトラブルを経験している。

回答が多かったSNSのトラブルを紹介する。

  • 自分の発言が自分の意思とは異なる意味で他人に受け取られてしまった 7.4%
  • 自分は軽いつもりで書き込んだが、他人を傷つけてしまった 4.7%
  • ネット上で他人と言い合いになったことがある 4.4%
  • 自分の意思とは関係なく、自分について(個人情報、写真など)他人に公開されてしまった 4.2%

SNS上でのトラブル経験|総務省

SNSで犯罪に巻き込まれる未成年が増えている。警視庁の発表によると、2017年にSNSを使った犯罪の被害者になった18歳未満の子どもは1813人に上った。被害者は5年連続で増えている。統計を取りはじめた2008年以降で最多だという。

被害は淫行など青少年保護育成条例違反が702人ともっとも多く、裸の写真を撮るなど児童ポルノが570人、児童売春が447人とつづく。被害者の95%が少女だ。15〜17歳が全体の70%を占める。多くが女子高生だ。

SNS使って被害の子ども、最多1813人 5年連続増|朝日新聞デジタル

SNSを使ったいじめも深刻だ。文部省が2017年に行った調査によると、SNSなど「パソコンや携帯電話での中傷、嫌がらせ」の認知件数が、前年より1596件増の1万789件に上った。同省担当者は「じっさいはもっとあるだろう」と話している。

学校種別では中学校がもっとも多く、5723件(1079件増)。全体の52%を占めた。

SNSいじめも件数増 前年度から1596件増の1万783件に 文科省「もっとある」|産経ニュース

SNSでトラブルが起こる理由

SNSのトラブルはなぜ起こるのだろう? 理由をみていこう。

  • 文章のみのコミュニケーションはむずかしい
  • 共通のルールやマナーが定まっていない
  • 世代によってSNSの使い方が違う

文章のみのコミュニケーションはむずかしい

コミュニケーションでは、言葉以外の情報が大きな意味を持つ。メラビアンの法則という有名な実験がある。コミュニケーションには、言語、聴覚、視覚の3つの要素があり、矛盾したメッセージを送るときには、それぞれの割合が7:38:55になるという。

  • 言語情報(話の内容)7%
  • 聴覚情報(話し方や話すスピード)38%
  • 視覚情報(見た目や表情)55%

たとえば、「バカじゃない?」と笑顔でやさしく言われたとき、言葉通りに悪い意味でとらえる人は少ない。多くの人が、笑顔と話し方(38%+55%)から得られる情報を優先し、良い意味で受け取る。

メラビアンの法則|ウィキペディア

SNSは言葉が中心のコミュニケーションツールだ。相手に伝わる文章を書けるなら問題ないが、すべての人がそうではない。言葉足らずだと、感情が伝わらず、誤解が生まれる。メールで絵文字や顔文字が生まれたのも、言葉だけでは伝わりにくい感情を伝えるためだ。LINEスタンプもそうだ。

LINEやツイッターは、短い文章や写真のみのやりとりが多い。前後の文脈がわからなくなったり、説明不足になったりする。また、直接話しているようなスピードで会話が進むため、感情的になりやすい。

大人でもビジネスメールで失敗するのだ。コミュニケーションが未熟な10代がトラブルを起こすのは当然といえる。

共通のルールやマナーが定まっていない

コミュニケーションツールは時代とともに進化してきた。手紙、固定電話、携帯電話、メールと進むにつれ、時間や場所から自由になり、やりとりも簡単になった歴史がある。

そしてLINEが登場した。LINEは短文で、まるでチャットのように素早いやりとりができる。コミュニケーションの速度がいっきに速くなったのだ。

だが、問題もある。他のコミュニケーションツールには一定のルールやマナーあるが、SNSにはないのだ。歴史が浅いことと、サービスが次々と登場していることが原因だ。

SNSは歴史が浅いコミュニケーションツールだ。日本で最初に人気がでたSNSサービスはミクシィだろう。ミクシィが誕生したのは2004年。まだ、15年ほどしか経っていない。

また、流行り廃りのサイクルも速い。わすが15年のあいだに、ミクシィ、ツイッター、フェイスブック、LINEなど、新しいサービスが次々と登場している。同じSNSというくくりになっているが、サービスごとに少しずつ機能が違う。使い方に慣れたころには、次のサービスが生まれているという状況だ。

大人なら手紙やメールのマナーが応用できる。挨拶文を入れたり、はじめに名乗ったりと、相手によって使い分けができる。だが、LINEから入った10代は誰に対しても挨拶もなく、いきなり用件から入る。他のコミュニケーションツールを使った経験がないため、マナーの引き出しがないのだ。

世代によってSNSの使い方が違う

SNSは世代によって使い方が違う。SNSはおもに友だち同士で利用する。使い方を学ぶのも友達からだ。

たとえば、10代はLINEの返信スピードにきびしい。既読になってからすぐに返事がないと、嫌われていると感じるという。大人なら、仕事中などでメッセージが読めても返事ができないという経験がある。返事がなくても気にも留めない。「忙しいのかな?」と考える余裕がある。

だが、10代は違う。彼らは時間が自由にならない立場におかれた経験が少ない。自分がひまだから相手もひまだと考えがちだ。相手の状況まで考えが及ばない。「返事がない」イコール「返事をしたくない」ととらえてしまう。

また、ローカルルールも世代間のコミュニケーションをむずかしくする。10代は大人には思いつかない使い方を生みだす。「こちゃ」「ぐるちゃ」「スタ爆」「スタ連」「ブロック大会」「ペア画」「既読スルー」「未読スルー」「ふぁぼ」「りつい」。これらは10代が日常的にLINEやツイッターで使うSNS用語だ。

今さら聞けないSNS用語集|ITmedia Mobile

SNSによるネット炎上事件の特徴

SNSで起こる炎上事件にはいくつかの特徴がある。詳しくみていこう。

  • 匿名だからと油断する
  • 検索対象・公開範囲がデフォルトのままになっている
  • 他者視点が欠けている
  • デジタルデータの保存しやすさ、拡散しやすさを甘くみている
  • 個人情報の管理が緩すぎる

匿名だからと油断する

インターネットには匿名で利用できるサービスが多い。5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)など匿名掲示板や、Yahoo!知恵袋などQ&Aサイト、ブログなどだ。ツイッターやミクシィ、やりようによってはフェイスブックも匿名で利用できる。

だが、匿名だからと安心するのは危険だ。ネットには「特定班」と呼ばれる人たちが住む。特定班とは、断片的な情報から個人や場所を探り当てる人たちの総称だ。

彼らの嗅覚は警察犬よりするどい。情報収集能力がおそろしいほど高く、わずかな情報からありとあらゆる個人情報を見つけ出す。炎上が起きた数時間後には個人情報が丸裸にされ、まとめサイトが作られているケースもある。

ネットやSNSには匿名など存在しない。ツイッターを匿名で使っていても、普段のやりとりや交流から交友関係がわかる。写真や投稿内容、投稿時間、位置情報、行動範囲、アカウント名から多くの情報が得られる。

フェイスブックを利用しているなら、特定はさらに容易い。ツイッターの情報とフェイスブックアカウントを照らし合わせると、個人はすぐに特定できる。フェイスブックは多くの人が実名で利用している。出身校や勤務先、家族など個人情報を登録しているため、本人につながるさまざまな手がかりが見つかるのだ。

検索対象・公開範囲がデフォルトのまま

SNSの投稿がフォロワーや友だちにしか見えていないと思っているなら、それは違う。

多くのSNSでは、デフォルト設定が「全体公開」「検索対象」になっている。LINE以外のほぼすべてのSNSは、投稿がネット検索できるのだ。インターネットに接続できる誰もから、投稿が見れる仕組みになっている。

投稿を見るのは、あなたに好意を持つ人物だけではない。人をおとしてめるのが大好きといった悪意を持つ人物にも見られる可能性があるのだ。

他者視点が欠けている

他人に対する無関心が炎上を生む。炎上する人たちは、仲間以外が自分の投稿を見たらどう思うかという視点が欠けている。視野が狭く、他の人も自分と同じ意見だと考えがちだ。

常識と想像力も欠けている。多くの人が問題があると感じる投稿をインターネット上にばらまくとどうなるか、といった判断ができないため、問題が大きくなる。

デジタルデータの保存しやすさ、拡散しやすさを甘くみている

ネット上のデータは保存しやすい。ネットの書き込みや、SNSのコメント・写真・動画などの投稿は数秒でコピーできる。画面はスクリーンショットやキャプチャで、画像や動画はダウンロードで保存される。

SNSは拡散性がある。ツイッターのリツイートや、フェイスブックの「いいね!」などだ。もともと情報が拡散しやすい仕組みになっているため、またたく間に火の手が広がっていく。気付いたときにはもう手遅れだ。消火できなくなっている。

個人情報の管理が緩すぎる

個人情報はひとりの人物を見分ける情報だ。氏名、住所、電話番号、生年月日、出身校、勤務先、家族構成、病歴、顔写真などを指す。

メールアドレスやLINE IDも個人情報に含まれる。LINE IDがわかると友だちになれる。トークや写真、動画の送受信だけでなく、通話までできてしまうため、出会い系被害など犯罪につながりやすい。

漏らすつもりがなくても漏れてしまうのが個人情報だ。友だちから個人情報がもれる場合もある。複数の情報を照らし合わせれば、個人に対するどんな情報も集められる。そう考えておいたほうがいい。

SNSとうまく付き合っていくには?

炎上事件を起こしたり、トラブルに巻き込まれたりしないためにも、SNSとうまく付き合う方法を紹介する。

  • 個人情報を出しすぎない
  • 自分に不利となる情報は残さず、他人に渡さない
  • 誰かが不快に思う投稿はしない
  • 投稿する前に文章や写真を見直す

個人情報を出しすぎない

個人情報はきびしく管理する。ネット上に出してもいい個人情報のラインを決めておく。本名を使うのか、出身地や勤務先を公開するのか、住所をどこまで明らかにするのか、などだ。

個人情報を載せるほうが、知り合いから見つけてもらいやすい。だが、会社の人にアカウントが見つかったり、知らない人に個人が特定されたりするリスクが高まる。「〇〇県」くらいなら大丈夫だが、「〇〇市」「〇〇駅」まで公開すると、ちょっと出しすぎかもしれない。

本人以外の個人情報にも気を配る。保護者が子どもの名前や写真をSNSに載せるケースがある。公開するのが友だち限定だといっても、名前や園名、学校名を載せるのはリスクが大きい。自分ひとりで判断せず、家族と相談したほうがいい。家族や友人の個人情報も本人に確認しよう。

プライバシー設定はしっかりと。公開範囲や検索対象は友だち限定にしておくと安心だ。LINE以外のSNSは、ユーザー以外からも投稿が見れる。ツイッターはネット検索対象だし、フェイスブックも全体公開にしていると友だち以外から投稿が見れる。

リアルの友だち以外ともつながっているなら、友だち限定に設定しても安全とはいえない。SNSの趣旨に反するが、直接交流がある人とだけつながるのが賢明だ。知らない人とも繋がるのは、それなりのリスクがあると理解しておきたい。世の中には危険な人がいるのだ。

位置情報にも気をつける。「〇〇に遊びにきている」「いま帰宅中」といった自分がいる場所をSNSで報告したせいで、ストーカーや空き巣の被害にあうケースがある。そもそも、ツイートや投稿にはある程度の位置情報がついている。削除したり非表示にしたりしておくと安心だ。少なくとも、自宅は特定されないように。

写真も個人情報のかたまりだ。取り扱いには細心の注意を払おう。

自分に不利となる情報は残さず、他人には渡さない

ネット上のデジタルデータはコピーや保存が簡単にできる。いちどネットやSNSにアップされると、投稿者が削除しても、閲覧者が保存していたら再アップロードされるなど、取り返しがつかなくなる。投稿したデータはどこかに残っている、消えないと思ったほうがいい。

裸の写真や犯罪を自慢する投稿は、おもしろがって保存する閲覧者が多い。のちのち投稿者を追い詰める危険がある。そもそも、そんな写真や投稿はデータに残したり、他人に渡したりしてはならない。

誰かが不快に思う投稿はしない

SNSでは、誰かが不快に感じる投稿をしてはならない。誹謗中傷、差別、迷惑行為、犯罪行為、守秘義務違反などだ。気軽な気持ちで投稿した内容が、炎上につながったり、友だちとの仲を壊したりする。たったいちどの過ちが人生を狂わす可能性もあるのだ。

ネット炎上が起こるのは、こんな投稿をした場合だ。このような理由で炎上したら、停学・退学処分、内定取り消し、損害賠償請求などの目にあう可能性がある。

  • 誰かの悪口を言う
  • 著名人のプライベートを勝手に公開する
  • 他人が不快に思う行為(差別発言、飲食店などで商品を粗末にする、アルバイト先の機密情報をバラす、など)
  • 犯罪や迷惑行為(飲酒運転、未成年飲酒、万引き、キセル乗り、線路内に入る、カンニング、など)

問題ある内容はネットには絶対に書いてはならない。炎上した事実はネット上に永遠に残る。就職や転職、結婚などに影響がでるかもしれない。「自分は大丈夫」といった余裕が、ネット炎上事件やSNSのトラブルを生むのだ。

投稿する前に文章や写真を見直す

SNSに文章や写真を投稿するときは、問題がないか、かならず見直す習慣をつける。感情的になって書いた文章、その場の勢いで書いた文章、なにげなく撮った写真などは、問題がある可能性が高い。

とくに、お酒を飲んだり、友だちといっしょにいたりするときは気持ちが大きくなっている。投稿する前に、自分に不利益が起こらないか、誰かが嫌な思いをしないか、といった見直しが必須だ。

まとめ|SNSは無料? ただより高いものはない

SNSは無料で利用できる。しかし、まったく無料で利用できるサービスなど、ない。SNSは民間の企業が運営している。サーバー代や開発費、メンテナンス代、人件費などがかかっている。どこかでコストを回収しないかぎりサービスは続けられない。

売られるのはユーザーの個人情報だ。フェイスブックには本名、生年月日、出身校、勤務先、趣味、既婚・未婚、出身地、住んでいる場所といった個人情報と、投稿内容や「いいね!」など本人の興味・関心がわかるデータがつまっている。フェイスブックはこれらの情報から表示する広告を選び、お金を稼いでいる。

ツイッターもそうだ。ツイッターはツイートを検索する権利や、ツイートから得られるデータを売って収益をあげている。

運営会社にとってSNSはビジネスだ。ユーザーが情報を公開するほど、ユーザー同士がつながるほど、利用頻度が増えるほど、運営会社はもうかる。多くのSNSでデフォルト設定が「全体公開」「検索対象」になっているのは利益のためだ。公開範囲を限定し、検索対象を拒むユーザーはメリットが少ないのだ。
「ただより高いものはない」と言われる。SNSがまさにそれだ。SNSでトラブルに巻き込まれたり、炎上事件を起こしたりしすると、笑い話では済まない。

笑えない人生行きの切符を、僕らはすでに持っているのだ。

SNS依存がヤバイ! やめたいけどやめられない、スマホに支配される人々

参考文献;

  • 書籍『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』高橋暁子
SNSのトラブルはなぜ起こるのか? ネット炎上事件の特徴を調べた