資料の中でも、グラフは花形選手だ。人は、視覚からもっとも大きな影響を受ける。文章や口頭で説明するより、ひとつのグラフのほうが雄弁に語るのだ。
社会人と資料作成は切っても切れない関係だ。とくに若手社員は、上司やクライアントのための資料を嫌になるほど作らされる。苦手な人は、はやめに克服するほうがいいだろう。
この記事では、見やすいグラフをデザインする8つのコツを紹介する。
*この記事のグラフは、無料で使えるgoogleスプレッドシートで作った。ExcelやNumbersほど高度なグラフは作れないが、機能が少ない分、直感的に操作できる。普段使いなら十分だ。
mokuji
見やすいグラフをデザインする8のコツ
見やすいグラフとは、作成者の意図がひと目で伝わるグラフだ。
おおかたの資料は、上司やクライアントのために作る。彼らは忙しい。見やすいグラフを作成できる人物は、どんな会社でも重宝されるのだ。
見やすいグラフをデザインするのは、難しくない。8つのコツを覚えれば、すぐに作れるようになる。
1 グラフはシンプルに作る
エクセルなどの表計算ソフトを使うと、クリックひとつで初心者でも簡単にグラフが作れる。
だが、初期設定のグラフは、見やすいとは言えない。余計な要素がたくさん含まれているため、ごちゃごちゃしているのだ。
例をあげよう。次の図は、googleスプレッドシートの初期設定のグラフだ。

これは、2010年から2017年までの売り上げを比べるために作ったグラフだ。
ひとつ質問する。2015年の売り上げはいくらだろう?
多くの人は、次の順番でグラフから数値を読み取ったと思う。
- 横軸で2015年を探す
- 棒グラフの高さを見る
- 目盛りをたよりに横軸の数字を確かめる
- おおよそ170百万円だと読み取る
数値を読み取るたびにこの作業を繰り返すのは、どうにもめんどうだ。読み手にこういった作業を強いるのは、資料としては好ましくない。
また、数値を読み取るための目盛り線や横軸などは、思った以上に主張する。作成者が見てほしい部分が目立たなくなるのだ。
見やすいグラフとはシンプルなグラフだ。グラフを作るときには、不要な要素を取り除き、必要最低限の情報だけを残すように心がける。そうすれば、見やすいグラフができあがる。
さきほどのグラフを手直ししてみよう。

このグラフは、それぞれの棒に数値をのせた。その年の売り上げは、ひと目でわかる。売り上げの推移も、視覚的にとらえやすくなった。
また、目盛り線や横軸といった余計な要素を取り除いた。数値を読み取る必要がないため、読み手は、棒の部分だけに集中できる。
2 ひとつのグラフに情報を詰め込みすぎない
いろいろなデータを1つのグラフにまとめると、グラフは複雑になる。作成者の意図が読み手には伝わらない。ごちゃごちゃしているから、わかりにくいのだ。
わかりにくいグラフは読み飛ばされる。読み手である上司やクライアントは忙しい。読み取るのに時間がかかる資料は、読みたくないのだ。
例をあげよう。部下は「前年より売上が増えた」ことを上司に伝えるため、次のグラフを作った。折れ線グラフを使って、2016年と2017年の売上の推移を月ごとにまとめたグラフだ。

部下が伝えたかった「売上アップ」は、たしかに伝わる。だが、このグラフには他のいらない情報が多すぎる。
グラフを見た上司は、きっとこう考える。「5月は前年を下回った。なにがあったのか」「8月と12月に売上が増えるのはなぜか」。
上司の中では、「売上が増えた」という情報は頭の隅に、すでに追いやられている。そのため、部下は「売上が増えた」のを褒められるはずが、予想外の質問が飛んでくる。悲劇が起こる。会議ではよく見る光景だ。
この悲劇は、グラフが複数の意味を持っていたのが原因だ。上司が気になるポイントを盛り込みすぎて、もっとも伝えたい「売上が増えた」という情報が埋もれたのだ。
では、上司から質問攻めにあわないグラフに作り直してみよう。

上のグラフは、「月ごとの売り上げ」ではなく、「2016年と2017年の売り上げ」に焦点を当てた。余分な情報がないため、「売り上げが増えた」のがストレートに上司に届く。
また、グラフの見やすさも格段にアップした。
3 パソコンに向かう前に下書きをする
資料を作るとき、ExcelやPowerPointをいきなり立ち上げるのは失敗のもとだ。
考えながら作業をするのは思った以上に時間がかかる。ああでもない、こうでもないと、パソコンの画面とにらめっこするあいだ、時間ばかりが過ぎていく。
見やすい資料を作るコツは、パソコンに向かう前の準備にある。パソコンの前に座るのは、情報を整理して全体の構成を練ったあとだ。頭の中のごちゃごちゃを整理するために、まずはノートに下書きをする。
下書きするほうが、効率はよくなる。完成図をさきに作っておくと、あとはそれに従って作業を進めるだけでいいからだ。
具体例をあげよう。「A社、B社、C社の2016年と2017年の売り上げを比較するグラフ」を作るとき、まずは棒グラフを思いついた。実際に完成イメージを紙に書いてみると、会社ごとの比較がしにくいことがわかった。そこで、3社の売り上げの推移を比較できるグラフが作れないかと考えた。スロープグラフに決めた。

下書きにかかった時間は、せいぜい10分程度。思いついたまま棒グラフを作っていたら、作り直しのために何倍もの時間がかかったはずだ。
また、他の誰かに資料作成を頼むときには、完成イメージ図を渡してあげよう。どんなグラフが必要なのかがはっきりと伝わる。口頭で伝えると、できあがった資料がイメージと違ったりする。こうしたコミュニケーション不足で起こるやり直しは、作成者(部下)に嫌われる。
4 読み手に優しいグラフを選ぶ
資料作成では読者視点を大切にしたい。おおかたの資料は、上司やクライアントなど、自分以外の誰かが見る(あるいは説得する)ために作るからだ。
読み手に負担をかける代表的なグラフは「3Dグラフ」。3Dグラフは立体的で見栄えがよく、使ってみたくなる。だが、遠近効果で図が歪んで見えるため、正確な数値が読み取りづらい。
下の図は「経費に占める人件費の割合」を示すグラフだ。どちらのグラフも人件費の割合は35%だが、左のほうが少なく見える。(この3Dグラフは厚みが薄いため、少なく見えないかも)。

3Dグラフの歪みは、正確な数値を読み取るのを妨げる。これでは情報が正しく伝わらない。(この錯覚は、なにかを隠したいときには役立つ。たとえば売上が下がった報告など)。
また、より見やすくなるように、出来上がったグラフには、ひと手間を加えよう。
左と右のグラフでは、どちらが見やすいだろうか?

見やすいのは明らかに右のグラフだ。左のグラフは数値を比べるのに、何度も目線を上下に動かす必要がある。右のグラフは、大きい順に数字を並べているため、スムーズに数値が読める。
この差は大きい。ひと手間を加えることで、グラフの見やすさは格段にアップするのだ。
5 大切なポイントは強調する
資料作成では、大切な部分を強調する手法をよく使う。文章の部分では、「フォントを変える」「フォントサイズを大きくする」「アンダーラインをひく」などがある。
同様に、グラフも伝えたいポイントを目立たせると、読み手により訴えかけることができる。
グラフでは、色を変えるのがおすすめだ。単に色を変えるだけではなく、強調したい部分のみ色をつけ、それ以外の部分はグレーにする。読み手は、色のついた部分にしか目が向かなくなる。

ほかには、軸の文字や数値を大きくする方法もある。色による強調と合わせて使うと、よりインパクトがある資料ができあがる。

6 資料の用途に合わせてグラフの見せ方を変える
仕事で作る資料にはいくつかの種類がある。求められる内容も違う。
報告書では情報の正確性が、プレゼン資料ではインパクトや見やすさが求められる。添付するグラフは、資料の用途にあったものを作らなくてはいけない。
下のグラフを見てほしい。これは「2016と2017の売上を比較」したグラフだ。

数値はまったく同じだが、見え方はまったく違う。理由は「縦軸の最大値と最小値」を変えているからだ。
左のグラフは、縦軸の範囲を「1150〜1350」に狭めた。売り上げが大きく伸びたように見える。
一方、右のグラフは、縦軸の範囲が「0〜1500」。初期設定のままだ。売り上げは「ちょっと伸びたかな」くらいの印象でしかない。
このように、グラフは見せ方次第で、読み手の印象を操作することができる。
要は使い分けだ。プレゼン資料など、読み手に強く訴えたい場合は、インパクトを高めるために左のグラフを使う。
情報の正確さが求められる報告書では、読み手に余計なイメージを抱かせるのは避けたい。事実をそのまま伝える右のグラフを使おう。
7 印刷を意識する
最近では、エコロジーや経費削減の観点から、社内で使う資料は白黒印刷、社外にだす資料はカラー印刷といったルールを定める会社も多い。
資料作成では、色の使い方にも気を配ろう。色の選択をまちがえると、カラーでは読み取れても、白黒では読み取れない場合がある。
下のグラフは、とあるアンケートの結果だ。Googleスプレッドシートの初期設定の配色で作成した。カラーでは、「はい」「いいえ」「どちらでもない」それぞれの割合がなんなく読み取れる。

だが、このグラフを白黒で印刷すると、右のようになる。これでは、それぞれの割合が目凝らさないとわからない。
このようなミスは、ちょっとした工夫で防ぐことができる。
① 交互に色の濃淡をつける
② 数値を入れる
③ あいだに白線を挟む
こうした工夫で、白黒印刷でも見やすいグラフが作成できる。改善したのが下のグラフだ。

このグラフは、配色ではなく色の濃淡でそれぞれのデータを表現した。白黒で印刷しても境目がわかるため、各データの割合がはっきりと読み取れる。
8 作成したグラフを見直す
出来上がったグラフは、最低でも3回は見直そう。
① 資料が出来上がった直後
② 15分ほど休憩を入れたあと
③ 次の日
見直しは時間が経ってからのほうが、細かいミスに気がつく。できあがった直後は達成感に溢れているため、慎重さに欠けるのだ。
また、見直しには、パソコンの画面ではなく、紙に印刷したものを使う。客観的な視点が持てるからだ。細かい部分にも目がゆき届き、ミスにも気づきやすい。
環境が許すなら、第三者に意見を求める。自分で作ったものはどうしても評価が甘くなる。気が置けない同僚に「このグラフ見やすいかな?」と聞いてみよう。
見直しが終わったら、修正に取りかかる。といっても時間はかからない。この段階での修正は、見やすさを整える程度だ。
グラフの種類や見た目を大きく変える必要があるなら、それは「下書き」の段階ですでにまちがっていたのだ。次回は下書きにもっと時間をとろう。
最後に、練習問題を用意した。
下の図は、売上高と成長率を示すグラフだ。作成者は「売上は増えているが、成長率は下がっている」のを伝えたい。どの部分を直すと、より見やすいグラフになるだろうか?

気になる点は2つ。まず、このグラフは、棒グラフと折れ線グラフのどちらが売上高で、どちらが成長率なのかがパッと見ではわからない。凡例はあるものの、見やすいグラフとは言いづらい。
また、このグラフは単位が抜けている。縦軸の目盛りが、売上高と成長率のどちらを指しているのかが、すぐにはわからない。
では、下の2点を修正したグラフを作ってみよう。
・ 縦軸に単位を追加する
・ 凡例を消して、グラフ中に項目名を表示する

ずいぶん見やすいグラフになった。
2013年と2017年以外の数値もグラフから消した。ほかの数値がなくても、「売上は増えているが、成長率は下がっている」のは伝わると判断したからだ。
グラフの作成は、慣れないうちは時間がかかる。だが、場数を踏むうちに、時間をかけずに見やすいグラフが作れるようになる。
参考書籍:『経営コンサルタントの一生使えるExcelグラフ術』 – 藤岡壮志・関口大介・中川愛美