コーチングの重要性は日本の企業でも広く知られるようになった。役員全員にコーチをつけたり、年間で数百人の管理職にコーチングを行う企業も出始めている。いまやコーチングは管理職にとっての必須スキルだ。
コーチングには相乗効果が期待できる。実際にコーチングを受けた課長が部下である係長にコーチングを行い、さらにその係長が若手にコーチングを行う。この流れが作り出されると、社員の能力開発はすでに成功したと言ってもいい。
効果的なコーチングを行うには、上司の質問力がカギとなる。新たに管理職になった人を想定し、コーチングでの質問力を鍛える12の自問リストを紹介したい。
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- コーチングとは?
- コーチングは上司の質問力がカギ
- コーチングでの質問力を鍛える12の自問リスト
- 1部下に新しい気づきが生まれるような質問をしているか?
- 2質問によって部下に自発的に考えてもらう機会を作れているか?
- 3部下のために工夫した質問ができているか?
- 4相手が自由に答えられる質問(オープンド・クエスチョン)をしているか?
- 5短いフレーズでシンプルな質問をしているか?
- 61度にいくつも質問せず1つのことだけ聞いているか?
- 7部下がまわりの人の考えを尋ね、話すときの参考にしていないか?
- 85W1Hの質問をうまく使い分けているか?
- 9オープンド・クエスチョンとクローズド・クエスチョンを使い分けているか?
- 10相手の考えを掘り下げたり、抽象度を上げたりする質問をしているか?
- 11ほかの選択肢を引き出すような質問をしているか?
- 12自分に対して効果的なセルフクエスチョンをしているか?
コーチングとは?
コーチングとは、目標達成に向けた自発的な行動を、対話を通じて後押しするための技術だ。仕事の技術をそのまま教え込むよりも、部下との対話によって「気づき」を与えることに重点を置く。対象者が自らの行動を変え、パフォーマンスを上げるように働きかける取り組みがコーチングだ。
コーチングは上司の質問力がカギ
傾聴とコーチングは違う
傾聴とは、真剣に聞くことだ。部下の言い分をじっと聞いてあげることと、コーチングは違う。
コーチングの目的
コーチングの目的は、目標達成のための能力開発を行うことだ。上司が適切な質問を投げかけることで、部下は問題を解決する力を獲得する。これがコーチングだ。そこでカギとなるのは、コーチングを行う者の質問力だ。
質問力がカギとなる理由
人は自分の行動を決めるとき、無意識に自問自答する。明日は何時に起きればいいのか、どのスーツを着るのか、会議の資料は揃っているか、などだ。問題解決能力に優れた人は、こうした自問のバリエーションが多く、そのレベルも高い。
組織の方向性もリーダーが発する質問によって決まる。たとえば課長が以下のような質問をよく発言するなら、部下は結果を強く意識している。きっと、新しいことへのチャレンジに消極的になっているはずだ。
- うまくいったのか?
- もう終わったのか?
- いくつ売れた?
- なぜ失敗した?
課長クラスの管理職がコーチングでチームを活性化するには、まず「全員が目標を達成できるチームを作る」というビジョンを部下に示すことが大切だ。ビジョンを提示した上で「そのために一人ひとりをコーチングしたい」と切り出せば、部下はついてきてくれるはずだ。
コーチングでは「部下の目標をより早く達成するためには、どのような問いかけが有効なのか」をよく考え、練り上げた質問を準備することが大事だ。
コーチングでの質問力を鍛える12の自問リスト
1部下に新しい気づきが生まれるような質問をしているか?
5W1Hの中でどの疑問詞を多用するか、で思考の癖がわかる。たとえば、期日を守れない人は、自分自身に「when」を問いかける回数が少ないのかもしれない。コーチングでは、その事実を部下に気づかせることが重要だ。
2質問によって部下に自発的に考えてもらう機会を作れているか?
部下には、コーチングが能力開発のための時間だときちんと理解してもらうこと。その上で自発的に考えてもらうことが欠かせない。そのためには、コーチングのための時間をしっかり確保する必要がある。
3部下のために工夫した質問ができているか?
その場で思いついた質問で効果を上げられるほど、コーチングは簡単ではない。部下のことをよく知り、本人の能力を伸ばすにはどんなことが効果的かを、日頃から考えておくことが必要だ。
4相手が自由に答えられる質問(オープンド・クエスチョン)をしているか?
質問者が正しいと思っている答えに誘導するような質問をしてはいけない。答えがイエス/ノーになるような質問は、誘導型になりやすい。自由に答えられるような問いかけをし、部下の考えを引き出すべきだ。
5短いフレーズでシンプルな質問をしているか?
コーチングでは部下への気配りも大切だ。長々と質問されると何が聞きたいのかわからないし、上司自身が何を聞きたいのか理解していない可能性がある。
61度にいくつも質問せず1つのことだけ聞いているか?
一度にたくさんのことを聞かれると、答えにくいのは当然だ。
7部下がまわりの人の考えを尋ね、話すときの参考にしていないか?
コーチングの目的は正解を当てることではなく、部下本人に答えを考えてもらうことだ。
85W1Hの質問をうまく使い分けているか?
気づきを与えるという意味では、部下が普段は意識していない問いをぶつけるのがよい。たとえば、納期(when)ばかり気にする人には、「なぜその仕事が必要なのか?(why)」を投げかけるなどだ。
9オープンド・クエスチョンとクローズド・クエスチョンを使い分けているか?
ときにはクローズド・クエスチョン(イエス/ノー型)の質問で相手の考えを確認したほうがいい場合もある。
10相手の考えを掘り下げたり、抽象度を上げたりする質問をしているか?
部下の答えがあまりにも抽象的な場合は、実際の行動に移しやすいように具体的な話をしたほうがいい。
逆に、より多くの人を巻き込むためには話の抽象度を上げたほうがいい場合もある。相手の答えに対して「一言で言うと?」と聞き返すことが効果的だ。
11ほかの選択肢を引き出すような質問をしているか?
これは表面的な答えで満足するなという意味合いだ。「ほかには?」「あとは?」と問いかけていくと、より深い思考を促すことができる。
12自分に対して効果的なセルフクエスチョンをしているか?
自分の質問の傾向をよく知るということだ。自分が行動する上で、どのような自問自答をしているのか、10種類ほどリスト化してみるといい。同じことを部下に質問している可能性が高いので、コーチングでの問いかけが偏らないよう気をつけたい。自分の仕事の仕方を確認するためにも有益な作業だ。