ゆとり世代は「やる気がない」と、部下の扱い方に悩んでいる上司は多い。励ましの言葉でいくらお尻をたたいても、彼らはどこ吹く風。まったく態度は変わらない。話を聞こうと飲みに誘っても断られる。
ゆとり世代には、いままでのやり方は通用しないようだ。いったいどうすればゆとり世代のやる気スイッチは入るのだろう?
mokuji
バブル世代の上司と、ゆとり世代の部下では、仕事に対する考え方が大きく違っている
バブル世代には、「いつかはクラウン」(お金のない若手のころはカローラで我慢。課長、部長に昇進したときにはクラウンに乗りかえる)に代表されるような、サラリーマンとしての成功を測る一本のモノサシがあった。
上司に誘われれば、仕事のあとの飲み会や休日のゴルフは絶対に断らない。懐かしいリゲインのCM「24時間戦えますか?」に例えられるように、それが企業戦士としての当たり前の姿だった。
しかし、豊かになった現代では、若者が手に入れたいものは多様化している。だれもが高級車に憧れた時代はすでに遠い昔のこと。高そうな車に乗っている人を見かけても、「車が好きなのかな」くらいにしか思わない。出世をしなくても衣食住には困らないし、お金がなくてもスマートフォンがあれば退屈な時間を過ごすことはない。
成功のモノサシは一本どころか、若者の数だけある。個人を尊重する(嫌なことは無理にしなくてもいい)教育を受けてきたので、プライベートの時間は自由に過ごしたいと思っている。会社の飲み会や休日のゴルフは平気で断る。
バブル世代にとって、ゆとり世代が「なにを考えているのかわからない」という理由は、このような世代間の仕事に対する認識のズレが原因だろう。
ゆとり世代の部下のやる気スイッチを入れる方法
40代、50代の中間管理職から見ると、ゆとり世代の部下にはやる気が感じられないという。今もなお、ビジネスの現場では「もっとやる気を出せ」などの時代遅れの根性論が叫ばれている。
だが、ゆとり世代は打たれ弱いし、怒られることには慣れていない。扱い方を間違えると、人格を否定されたと落ち込み、「パワハラ」や「うつ」を訴えて退職してしまう。
ゆとり世代は決してやる気がないわけではない。大切に育てられてきた彼らは、経験値が低く、成功体験が少ない。自分に自信がないので、チャレンジすることには臆病だ。ゆとり世代の不安さ、一歩を踏み出す勇気のなさは表情や態度に表れる。年配者にはやる気がないように見えてしまう。
信頼関係を築くには、部下を認めてあげること
ゆとり世代は「1番になりたい」という欲求は弱いが、ひとりの人間として「認めてもらいたい」という承認欲求は強い。「きみはできるんだよ」と彼らの能力を認めてあげることで、自己肯定感が高まり、「自分はできるかも」という感覚が芽生える。
「認める」といっても「褒める」わけではない。褒めるのはモチベーションを落とさせないためには有効だが、何も成果を出していない状況で褒めてしまうと、彼らは「これくらいでいいのか」と現状で満足してしまう。褒めてあげるのは結果を出したあとでいい。
結果が出ていない段階では、努力をしている今の姿を認めてあげる。働いている部下の後ろを通るときに「がんばってるな」と一声かける程度でいい。気にかけていることを態度で示すのだ。
認めてあげることで、信頼関係ができる。上司の指示を納得して受け入れるようになる。「ゆとり世代は非常識だ」と距離を置くのはやめて、部下に関心があるということを言葉と行動でメッセージを送る。心を開かせることができれば、彼らが本当に望んでいるものが見えてくるはずだ。
信頼関係を築く以外にも、部下の失敗や成功を受け止めてあげる職場環境作りが上司には求められる。ミスを隠そうとしたり、失敗をとりつくろうと嘘をついたりする環境では、部下は成長しない。失敗を素直に認め、それを次に生かそうと考えることで、ミスは成長のきっかけになる。
やる気に影響を及ぼす神経伝達物質
脳の中では、神経細胞のあいだで情報を伝えるために約100種類の神経伝達物質が働いている。その中で、感情や心の状態に大きな影響を及ぼすのがノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンだ。
やる気ってなに?
やる気とは、目標地点に向けて計画を立て、達成までの過程が具体的にイメージできることでわき上がってくる「いけそうだ」「できそうだ」という気持ちのこと。
やる気には、自分自身の内側から現れる「内発的動機付け」と、他者によって外側から与えられる「外発的動機付け」の2種類がある。
内発的なやる気は、成長していくための理想的なやる気だが、自分自身でしか作り出すことができない。何がきっかけでやる気のスイッチが入るかは人それぞれ。ゆとり世代が自らやる気を出すのを待っていては、いつまで経っても彼らは成長しないし、仕事も進まない。
はじめは無理やりでOK!まずは仕事をはじめさせる
ゆとり世代には、アメとムチを使った「外発的動機付け」からスタートするのがいい。外発的なやる気は「よくないもの」と考えられてきたが、最近では、内発的動機付けと外発的動機付けを組み合わせる「自己決定理論」という新しい考え方が主流になってきている。
はじめは無理やりで構わないので、「これをやれ」と指示を出して、仕事を始めさせる。後まわしにしがちな嫌な仕事や厄介な仕事でも、最初の4分間を乗り越えれば、気分が乗ってきてどんどん先に進めるようになる。仕事が進むと、やる気が高まっていく。これを初動4分の法則という。
仕事を進めていく中で、自分で目標を立てる力や、課題を見つける力が自然と身についていく。自分の成長が感じられると、外発的だったやる気が内発的なものへと変わっていく。
フローを上手く使って、部下を成長させる
やる気のスイッチが入ったあとは、「フロー」と呼ばれる状態をうまく使ってスキルアップを図っていく。フローとは、心理学者のチクセントミハイが提唱している考え方。自分のスキルと仕事の難易度のバランスが取れているときには、仕事をすることが心地よく感じられるという。

フロー領域から上に外れた部分は、スキル以上の高難易度の仕事を与えられたとき。この領域では、「できるかな?」と不安を感じてしまう。フローの下に外れた領域では、難易度が低すぎて「もう飽きた」と退屈に感じる。
仕事のスキルと難易度のバランスは、やる気にも大きく影響する。フロー領域では、内発的動機付けが非常に強く、やる気が満ちている。時間を忘れて熱中しているような状態だ。脳内ではドーパミンが放出されている。上司は、部下の仕事のスキルと難易度のバランスが崩れないように、部下のスキルアップとともに仕事のハードルを少しずつ上げてあげるといい。
部下がもっとも成長するのは、成功確率50%の目標設定のとき
心理学と脳科学の研究では、成功確率が50%の目標を設定したときに、もっともやる気が高くなることがわかっている。成功体験を重ねるとモチベーションは高まり、その過程でスキルも向上する。チャレンジすることが楽しくなり、次第に難易度の高い仕事を好むようになる。仕事のレベルを上げる理想的な状態といえる。
仕事の難易度は少しずつ上げていく。現在の仕事レベルの10%アップ程度が最適だ。目標は高すぎても低すぎてもよくない。
たとえば、テストで50点しかとれなかった学生に、次は100点を目指せと言っても「無理に決まっている」とはじめからあきらめてしまう。しかし、目標が10%アップの55点だったら「5点ならなんとかなるかもしれない」と感じ、勉強に取り組む。集中力も高まる。目標を達成できれば、もっと高い点数を取りたいという意欲がわき、進んで勉強をはじめるようになる。
目標を与えられたときには、緊張に関係するノルアドレナリンが分泌される。分泌量が多くなりすぎると不安感が強くなるが、適度であれば集中力が高まり、パフォーマンスがよくなる。目標を達成したときには、今度はドーパミンが放出される。
徐々にハードルをあげていくことで、ノルアドレナリンとドーパミンが交互に分泌される。はじめは無理やりやらされていた仕事や勉強を、いつのまにか自ら進んでやるようになる。外発的動機づけだったものが内発的動機づけに変わっていく。
ゆとり世代のやる気を継続させるには?
やる気を継続させるには、自分にとって心地よい仕事のパターンとリズムを見つけることが大切だ。
たとえば、長距離ランナーは、自分のフォームとリズムをしっかりと持っている。無理をしなくても走り続けられるので、モチベーションを維持できる。仕事でも、成功と失敗を繰り返しながら経験を積み、「こうすればうまくいく」という自分なりの勝ちパターンを見つけることが大切になる。
目標のとらえ方によっても、成長、やる気、パフォーマンスは大きく変わる。「達成目標理論」での目標のとらえ方には、「自我目標志向」と「課題目標志向」という2種類がある。
成績や評価ばかりを考えて行動する自我目標志向が強くなると、失敗を恐れるようになり、挑戦する意欲は衰える。目標を達成するためのプロセスを重視する課題目標志向が強いと、自分の努力や成長の過程に目を向けるようになる。課題目標志向が強いほうが、「成長したい」という意欲が高い。
ミスを許さない環境では、課題目標志向が強い部下は育たない。入社時に持っていた「成長したい」「チャレンジしたい」という気持ちは時間の経過とともに消える。いつのまにか「失敗したくない」と結果ばかりを気にするようになる。上司は、部下がどちらの考え方をしているのかを常に意識したい。
ゆとり世代の部下のやる気スイッチを入れる方法;まとめ