わかりやすい記事の代表は新聞記事だ。新聞が読みやすい理由は2つ。ひとつは、文章の基礎を守って書いていること。もうひとつは、完成した文章を複数の人が読み、推敲・校正していることだ。記者の書いた原稿は、デスクが手直しし、校閲担当者が念入りにチェックしてから、やっと読者の手元に届くのだ。
個人の場合、文章を複数の人に確認してもらうのはむずかしい。だからこそ、書き手自身の目と手を使い、丁寧に推敲する必要がある。
文章が下手だと思っている人は、この推敲作業をおろそかにしていることが多い。これから紹介する手順通りに、推敲をやってみてほしい。文章は確実に良くなるはずだ。
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推敲するのは、なぜ?
書き手の多くは誤解している。読み手が自分の文章をじっくり読んでくれる、というのは思い違いだ。その思い違いが、文章が下手でも丁寧に読めばわかるはずだ、という甘えを生む。推敲の手を抜かせる。
読み手はざっと目を通すだけの斜め読みがほとんどだ。書き手には斜め読みでも理解できる、わかりやすい文章を書くことが求められる。推敲はそのためにするのだ。
推敲のステップ1 文章を寝かせる
書き上げた文章はすぐにチェックせず、少しのあいだ寝かせたほうがいい。文章を書いたあとは、自分の脳に文章の記憶がしっかりと焼きついている。パソコンのキャッシュみたいにデータが脳に残っている。だから、文章の悪い部分が見えにくい。文章の内容わかっているため、さらさらと読み飛ばしてしまうわけだ。
文章が完成したあと一定の時間を置くことで、脳内の記憶が薄まる。すると読み手に近い感覚で文章を読める。文章を書いた翌日に推敲するのが好ましいが、1時間ほど別の作業をするだけでもそれなりの効果がある。
推敲のステップ2 文章の不要な部分を削る
文章を読みやすくするには「てにをは」の見直しより、不要な部分を削ることだ。
1一文を短くする
一文が長いと、主語と述語が離れたり、文が複雑な構造になったりする。読みづらい文章の特徴だ。斜め読みではまったく理解できない。
一文の理想の長さは40文字程度だ。わかりやすい解説で有名な池上彰氏の書く文章は、平均40文字前後に収まるそうだ。なかには長い文もあるが、全体では短い文が多いため読みやすい。文章の下手な人は、一文が40文字以下になるよう心がけたい。
2形容詞・形容動詞・副詞は削りやすい
文章の不要な部分を削るといっても、削れるものと削れないものがある。削りやすいのは形容詞・形容動詞・副詞。修飾語になる3つの品詞だ。
- 形容詞 高い、美しい、かわいい、きれい、楽しい、うれしい、など
- 形容動詞 立派な、低俗な、高そうな、楽しそうな、可哀想な、嬉しそうな、など
- 副詞 もっと、そろそろ、しっかり、いらいら、うきうき、うんざり、など
修飾語は書き手の意見や感想を示すことが多く、主語・目的語・述語は事実を表す。そのため、修飾語を削っても事実を歪めることはない。
3名詞・動詞は削りにくい
削りにくいのは名詞と動詞だ。どちらも事実を表す要素で、文章の骨格を作っている。この2つを削ると、意味がわからない文になりかねない。ただし、主語となっている名詞が前文と同じなら省略できる。
名詞と動詞が複数ある文章は長くなりがちだ。長い文は読み手を混乱させる。いくつかの文に分けるのがよい選択だ。
4無意味な語尾を削る
次に削るのは語尾だ。「と思う」「といえる」「することが可能だ」といった表現は、あってもなくても意味が通じる。削るほうが文の意味がはっきりするし、リズム感も良くなる。
5重複している内容・表現を削る
重複する部分も削る。「はっきりと明記する」の「はっきりと」や、「まず第一に」の「まず」はいらない。同じことを繰り返しているだけだ。読み手の負担を減らすためにも、文章はすっきりさせたい。大胆に削ってしまおう。
推敲のステップ3 語順を見直す
語尾の見直しは、「長い修飾語」「強調したい部分」「発生時点が早いもの」をなるべく文の前半に置くことだ。
ネット通販最大手の米アマゾンの日本法人「アマゾンジャパン合同会社」(東京都)が、取引先に対して不当な「協力金」を負担させた疑いがあるとして、公正取引委員会は15日、同社に独占禁止法違反(優越的地位の乱用)容疑で立ち入り検査をした。 朝日新聞デジタル(2018/3/15(木) 11:38配信)より引用
長い修飾語
引用文では、A「ネット通販最大手の……疑いがあるとして」がもっとも長い修飾語だ。他には、B「15日」、C「同社に」、D「独占禁止法違反(優越的地位の乱用)容疑で」が述語の「立ち入り調査をした」を修飾している。ABCDをADBCに並び替えると、意味が通りやすい。
強調したい部分
主語の「公正取引委員会」を強調したいときは、文のはじめに持ってくる。ビジネス文書では主語を文頭に置くほうが、事実関係がはっきり伝わる。ただし述語までの距離が離れすぎるのは、わかりやすさを欠く。短い文を心がけたい。
発生地点が早いもの
これは引用文の通りだ。アマゾンが疑いのある行為をしたのは、公正取引委員会が立ち入り調査をした25日より以前だ。
文章の体裁を整える
文章の体裁も重要だ。読み手は文章を読む前に、見ている。読まずとも情報の構造がわかる文章は、読み始めたときの理解がはやい。
最終選定した機種は、「蓄電装置250X」です。御社札幌研究所で4月に開発された機種です。その理由は、蓄電量が大幅に増大されたにもかかわらず、サイズが従来の150Lモデルと同等であることです。各地の弊社工場に設置する場合。やはりサイズが決め手でした。蓄電速度が大幅に改善されたことも理由です。発注要望は、本年度までに12個の納品を希望しております。以上、至急、可否をご検討くださるようお願いいたします。
上の引用文は悪くない文章だ。一文あたりの文字数もほどよく、読みやすい。要点もまとまっている。だが、最初から最後まで丁寧に読まなければ、言いたいことが伝わらない。見るだけで理解できるとは言いがたい文章だ。
□最終決定機種:蓄電装置250X。御社の札幌研究所で4月に開発された機種です。
□選定理由:蓄電量が大幅に増大されたにもかかわらず、サイズが従来の150Lモデルと同等であることです。各地の弊社工場に設置する場合。やはりサイズが決め手でした。蓄電速度が大幅に改善されたことも理由です。
□発注要望:本年度までに12個の納品を希望しております。
以上、至急、可否をご検討くださるようお願いいたします。
訂正後の文章だ。全体の構造が見るだけで把握でき、さらに読みやすくなった。修正したのは以下の3点のみだ。少し手を加えるだけで、視認性は良くなる。やらない手はない。
- 文頭に目印を置き箇条書きにした
- 情報を項目に分けた
- 項目のあいだに空白を入れた
推敲で下手な文章は見違える
推敲では以下の3点に気をつける。文章は見違えるほど良くなる。文章が下手だと感じている人は、ぜひ試してもらいたい。
- 文章を寝かせる
- 文章の不要な部分を削る
- 語順を見直す
そのあと、文章の体裁を整える。情報を整理するのは、ビジネス文書の基本だ。コンパクトにまとまっている資料ほど、きっちりと読んでもらえる。さいごに誤字脱字などの校正も忘れずに。