残業代未払いを許すな! 労働裁判で勝てる証拠書類一覧

残業代未払いを許すな! 労働裁判で勝てる証拠書類一覧

労働問題が表に出るようになった。過労死やセクハラ、パワハラといった話題が連日ニュースになる。サービス残業と聞くたびに嫌な気持ちになる。

行動を起こす人も増えている。労働相談の件数は年々増加傾向だ。今回のテーマである残業代未払いの問題も含む。苦しんでいる人、戦っている人がいる。

勝利を得るには証拠が必要だ。他の労働問題に比べると、未払い残業代は証拠が集めやすい部類に入る。だがなかには、後から手に入れるのがむずかしい証拠書類もある。

会社と争う決心がついた人はもちろん、まだ悩んでいる人も、残業代が未払いである証拠だけはいますぐ集めておこう! いざという時のための準備だ。

なぜ証拠が必要なのか?

会社と交渉するにしても、労働監督署に相談するにしても、証拠がないと話にならない。

労働監督署ではこのような質問を受ける。

  • 会社はなぜ残業代を払わないのか?
  • 毎日どのくらい働いているのか?
  • 所定労働時間は何時から何時までか?
  • 就業規則にはどのように書いているか?
  • 残業代が支払われていないと主張する根拠は?
  • 法定労働時間を超えているか?
  • タイムカードの記録など、働いていた事実を証明できるものはあるか?

仕事とはいえ、労働監督署の職員も人間だ。戦う意思がある人には力になってあげたいと思う。だが、その気持ちが見えない人にはそう思わない。やる気ありかすか? 本心ではそう思っている。

やる気は準備の差に現れる。やる気がある人は、残業代が未払いである証拠を集め、労働問題に関する知識を調べている。「わかりません」「たぶん」「だと思います」では、誰も手を貸してはくれない。

なりより必要なのは事実だ。働いた時間がわかる記録と、支払うべきお金が支払われていないことがわかる資料。集める証拠書類はのちほど詳しく説明する。

次に知識。就業規則を読んだことがない、法定労働時間を知らない。それでは会話ができない。未払い残業代を本気で取り戻したいなら、労基法の残業に関する部分は読んでおく。最低でも、時間外労働の説明くらいはすらすらとできるように。

未払い残業代請求は証拠がすべて

大人のケンカは、証拠を持っている側が勝つ。有利とかそういうレベルではなく、必ず勝つ。裁判所など公的機関は証拠書類で判断する。口ではなんとでも言える。ホントか嘘か判断できない。証拠が決め手となる。

未払い残業代請求では、次の2点がもっとも強いカードになる。

  1. 残業をしていた事実を示す記録(タイムカード)
  2. 残業代が支払われていない証明(給与明細書)

この2点を突きつければ、会社は言い訳できない。第三者は納得する。残業があった、なかったの部分に関しては、これ以上話し合う余地がない。残業代がどれだけ戻ってくるか、話し合いは次のステップに進む。

取り戻せる残業代は、証拠書類の信ぴょう性で決まる。労働裁判や民事訴訟では、あいまいな部分はカットされる。事実として認定できる部分のみ、会社に支払い命令が下る。

これは和解でも同じ。「あいまいな部分は支払いません」。会社がそう主張すれば、こちらは納得するしかない。証拠にあいまいな部分が多いほど、和解金の額が減る。

未払い残業代請求は証拠集めがすべて。会社側が黙るほど確かな証拠を集めることが、完全勝利につながる。

証拠が集まるまでは口外しないことをおすすめする。会社にも、同僚にもだまっておく。会社に気づかれると、証拠集めに苦労する。準備はこっそりが鉄則だ。

未払い残業代請求の証拠書類一覧

ここからは、労働裁判に申し立てすることを前提に、未払い残業代請求で必要となる証拠資料を解説していく。

タイムカード

タイムカードは残業をした事実を示す確かな証拠だ。出退勤の時間がわかる。各自のパソコンに出退勤システムを導入している会社なら、履歴から過去分もかんたんに手に入る。

問題はタイムカードを会社が管理している場合だ。「タイムカードをコピーしたい」と申し出ても、総務部はそうやすやすと渡さない。「理由は?」と聞かれる。理由もなく重要書類をコピーさせてくれる会社はない。会社には社員の要求に応える義務もない。

在職中ならこっそりコピーする。過去分はむずかしくても、当月分は持ち出せるはず。毎月繰り返す。これは犯罪ではない。

見つかった時の言い訳も考えておく。「嫁に浮気を疑われている」なんてどうだろう?

あるいは正直に話す。覚悟を決める。「残業代がでないのはおかしい。だから証拠を集めている」。相手が同僚で、同じ意見なら見逃してくれる。仲間が増えるかもしれない。

退職後に請求する場合は時効に注意する。賃金の請求権は2年で時効になる。時間をかけるほど戻ってくる金額が減る。すぐに手続きに入れるように、退職前に準備しておくのがスマートだ。

勤務時間と勤務内容を書いたメモ

なかにはタイムカードがない会社もある。その場合は勤務時間と勤務内容をどこかにメモしておく。手帳が無難か。毎日の出勤時間が決まっているなら、退勤時間だけもいい。

記録は毎日忘れずにつける。まとめて書くと、筆記用具が同じになる。筆跡も似る。証拠能力が落ちる可能性がある。

パソコンで記録する場合は、勤務日報を書く方法がある。Wordのファイルには最終更新時刻が残る。ファイルは1日ごとに分ける。データは自分のメールアドレスに転送する。メールには送受信の時刻が残る。

問題はパソコンが会社の持ち物だということ。会社はハードディスクの中身を見たり、消したりできる。メールも監視しているかもしれない。動きがバレる可能性がある。

その他の証拠

自分で書いたメモには客観性がない。証拠書類としては絶対ではない。労働裁判では、それを裏付ける補足資料が求められるときがある。

保険として、次の証拠を集めておくと安心だ。

  • SuicaなどIC定期券の通過履歴(Suicaは自動券売機で直近50件まで印字できる)
  • 会社近くのコンビニのレシート(会社帰りに100円コーヒーを買う)
  • ホワイトボードなどに書いた帰社予定時刻の写真
  • 同僚や取引先に残業中に送ったメール(印刷しておく)
  • 「仕事が終わった。帰宅する」と携帯電話から家族に送ったメール
  • タクシーの領収書(乗車時間をメモする)

他にも、残業していた事実を証明できそうなものは保管しておく。

給与明細書

給与明細書は、残業代が支払われていない事実の決定的な証拠だ。手元にある分は月順に並べ、保管する。未払い残業代が請求できるのは直近の2年間まで。だが、2年を過ぎた給与明細書も残しておく。

2年を過ぎた分は補足資料になる。何年も前から、会社が違法な行為をしていた証明になる。第三者には会社の実情が伝わる。会社側の発言には説得力がなくなる。

就業規則(給与規定)

就業規則も立派な証拠書類だ。会社によっては配布するところと、閲覧のみのところがある。

閲覧方式ではコピーを断られる場合がある。「じっくり読みたい」など理由をつけて、こっそり持ち出そう。犯罪ではない。配布方式でも、退職時に返却を求められる場合が多い。はやめにコピーをとること。

就業規則はあとで手に入れる方法がある。従業員が10人以上の会社は、所轄の労働基準監督署に就業規則を届ける決まりがある(労基法89条)。労働基準監督署に行けば、いつでも閲覧できる。

労働契約書(雇用契約書)

会社と従業員は入社時に労働契約書を交わす。これは法律で決まっている。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労基法15条)

労働契約書には労働条件が細かく書いている。

  • 契約期間(非正規は明記、正社員はなし)
  • 勤務地
  • 仕事の内容
  • 始業終業の時刻
  • 休憩時間
  • 休日
  • 有給休暇
  • 賃金とその計算方法
  • 賃金の締切日と支払日

会社は労働契約書を作り、入社予定の社員に説明する義務がある。社員が署名捺印すると、労働契約が成立する。会社と従業員はそれぞれ1枚ずつ保管する。非正規の場合は、更新のたびに新たな労働契約書を交わす。

ほどんどの会社は労働契約書を交わす。労働契約法にあるからだ。もし労働契約書がないとしたら、それはよほどコンプライアンス意識がないブラック企業だ。

交渉内容の記録

未払い残業代の請求を決心したら、会社との交渉を始める。まずは直属の上司に相談するのが筋だろう。

この段階では、あくまで相談という形をとる。ボクシングでいうジャブだ。訴えるとか、裁判とか、証拠とか、核心に迫る言葉は避ける。会社側が警戒すると証拠が集めにくくなる。

ただし、交渉に入ったのは確かだ。会話は記録する。上司は警戒していない。発言は本音が引き出せる。

たとえばこんなことを言う。「うちの会社は残業代なんてもともと出ない。それが不満なら辞めるしかないよ」。

これは問題発言だ。以前から労働法違反をしている疑いがある。そして退職を勧めている。あとあと有利になる。

会話は録音する。相手には内緒だ。録音を伝えると、相手は警戒する。これでは話が引き出せない。自分の会話を記録するのは違法ではない。

録音にはICレコーダーが便利だ。価格は1万円程度。安くはない。だが、この程度の出費で未払い残業代が全額返ってくるなら買いだろう。うっかり消さないように、バックアップを忘れずに。

メールでのやりとりも有効だ。会社側の対応が文書で残る。

たとえばこんなメールを送る。

「残業代の件、やはり納得がいきません。人事部に相談したいと思います。よろしいでしょうか。〇〇部長のご意見をもう一度メールにてお聞かせいただけませんか」。

交渉メールは印刷するか、または個人のメールアドレスに転送しておく。

残しておくのは交渉関係のメールだけではない。取引先や社内関係者との残業中のメールも含む。メールは相手がいる。客観的な証拠になる。

同僚の陳述書

未払い残業代の交渉は、労働裁判や民事訴訟までもつれる場合がある。同僚の陳述書は強い味方になる。

陳述書は、原告または被告の主張を裏付けるために裁判所に提出する証拠書類のひとつ。本人は出廷しない。その代わり、証人として裁判官に文書を送る。

陳述書には事実をありのまま書いてもらう。同僚ならこんな感じになる。

  • 同じ職場で働いている
  • 毎日遅くまで残業している
  • 残業代は出ていない
  • 残業代が出ないのは不満だ
  • 会社は法的に問題ないと言っている
  • 個人的には違法だと思う
  • 自分の残業時間は月に〇〇時間
  • 自分も未払い残業代請求を考えている

陳述書は抜群の証拠能力を持つ。だが、書く側にはリスクがある。陳述書は会社にも知れる。軽い気持ちではできない。在職中の同僚にはむずかしいだろう。退職した同僚に頼むのも手だ。

会社の登記簿謄本

労働裁判や民事訴訟では、会社の登記簿謄本が必要になる。裁判所には、会社が本当に存在していることを示さなくてはいけない。それが登記簿謄本だ。

会社が法人の場合は、所轄の法務局に必ず登記してある。個人事業主は法人登記していない。

登記簿謄本は誰でも簡単に手に入る。入手先は所轄の法務局(登記所)だ。場所は下のリンクより。

所轄のご案内 – 法務局

インターネットからも入手できる。「登記情報提供サービス」という。遠方の会社の登記簿謄本も交付してもらえる。詳しくは下のリンクより。

登記情報提供サービス

未払い残業代計算書

未払い残業代を集計した書類を作っておく。タイムカードと就業規則(給与規定)をもとにエクセルなど表計算ソフトで作る。

法令で定められた計算方法を紹介する。割増率など、就業規則のほうが従業員に有利な場合はそちらで計算する。計算方法は東京労働局のリーフレットを参考にした。

割増賃金の計算方法(PDF) – 東京労働局

まずは1ヶ月のごとの残業時間を計算する。タイムカードから1日ごとの残業時間を分単位で書き出す。それを合計する。30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げる。

次は1時間あたりの賃金(時給)を計算する。計算式は「月給/1年間における1ヶ月平均所定労働時間」。

月給は「基本給+手当」。家族手当や通勤手当など、月給には含まない手当がある。詳しくは就業規則で確かめる。ここではわかりやすいように「月給=基本給」とする。

1年間における1ヶ月平均所定労働時間は「(365日−年間所定休日)×1日の所定労働時間/12ヶ月」で計算する。

基本給240,000円、年間所定休日125日、1日の所定労働時間8時間の場合、1ヶ月の平均労働時間は160日。時給は1,500円になる。

割増賃金(残業代の単価)は「時給×割増率」で計算する。時間外、休日、深夜で割増率は変わる。ここでは割増率25%とする。割増賃金は1,875円になる。1円以下の端数は切り上げる。

社畜とはなんだ? 社畜の特徴をわかりやすく解説する

参考書籍:『弁護士に頼らず1人でできる 未払い残業代を取り返す方法』松本健一

残業代未払いを許すな! 労働裁判で勝てる証拠書類一覧